佐野と空蝉、あらたな任務
その日の夕刻。
一行は京の鹿島館へ集い、氏治は短い評定を開いた。
上座に氏治、その左右に真壁幹久と笠間幹永。
正面には佐野昌綱、水戸頼家、北畠具親、鹿島政清らが控えている。
氏治は一同を見渡した。
「此度の上洛は無事に終わった。」
「されど、我らの務めはこれから始まる。」
一同は静かに頭を垂れる。
氏治はまず鹿島政清へ命じた。
「政清。」
「はっ。」
「鹿島館を坂東の京における拠点とする。」
「商いを絶やすな。人の流れを掴み、都の動きを見続けよ。」
「御意。」
続いて水戸頼家へ視線を向ける。
「頼家。」
「儀仗抜刀隊は鹿島館へ常駐せよ。」
「平時は礼をもって客を迎え、有事には直ちに刀を執る。」
「坂東の使者、朝廷への参内、公家方への供回り、そのすべてを任せる。」
「はっ。」
氏治は北畠具親へ続けた。
「具親。」
「水戸とともに鷹司家との交誼を深めよ。」
「礼を尽くし、信頼を積み重ねるのだ。」
「もし鷹司家に危難が及ぶことあらば、抜刀隊をもってその身辺を護れ。」
北畠は深く一礼した。
「承知いたしました。」
最後に氏治は佐野昌綱を見据えた。
「昌綱。」
「はっ。」
「そなたは京へ留まれ。」
「武家、公家、寺社、町人──身分に拘らず人々と交わり、その本質を見極めよ。」
「敵味方を識別すること。それがそなたの務めだ。」
佐野は静かに頭を下げる。
「必ずや、その御期待にお応えいたします。」
氏治は満足そうに頷いた。
「戦は刀を交える前に始まっている。」
「人を知り、世を知る者が、最後に国を治める。」
「各々、その務めを果たせ。」
「ははっ!」
一斉に響く返答が鹿島館の広間に満ちた。
こうして京における小田家の第一歩は刻まれた。
鹿島館は坂東と朝廷を結ぶ拠点となり、儀仗抜刀隊はその守りを担う。
そして佐野昌綱は、人々との交わりの中から、この乱世における真の敵と味方を見極めるため、静かに京の町へ歩み出すのであった。




