鷹司家への招き
任官の儀を終えた氏治は、真壁幹久、笠間幹永とともに宮中を退出した。
朝廷の役人に案内され、控えの間で一息つく。
真壁はようやく大きく息を吐いた。
「……生きた心地がせなんだ。」
笠間も苦笑する。
「戦場より緊張したわ。」
氏治は穏やかに笑った。
「二人とも、ご苦労であった。」
その時、一人の蔵人が静かに部屋へ入ってきた。
「小田左近衛中将様。」
まだその呼び名に誰も慣れていない。
真壁と笠間は思わず顔を見合わせた。
「関白・鷹司家より、お招きにございます。」
氏治は姿勢を正した。
「鷹司殿より。」
「左様にございます。」
「任官のお祝いと、今後の親交についてお話ししたいとの仰せにございます。」
氏治は静かに頷いた。
「承ろう。」
鷹司邸。
格式ある門をくぐると、美しく手入れされた庭が一行を迎えた。
「さすがは五摂家……。」
真壁が思わず呟く。
笠間も庭石や池を見渡しながら感心していた。
やがて一行は広間へ案内される。
上座には鷹司家当主が座していた。
氏治は深く礼をする。
「本日はお招きいただき、恐悦至極に存じます。」
鷹司当主は柔らかな笑みを浮かべた。
「堅苦しいことは抜きにいたしましょう。」
「本日お会いしたかったのは、官位を授けられた左近衛中将殿ではございませぬ。」
「佐野昌綱殿が命を懸けて推挙した、小田氏治殿にございます。」
氏治は静かに頭を下げた。
「昌綱には過分な忠義を尽くしてもらっております。」
「その忠義に応えることが、主たる私の務めにございます。」
鷹司当主は満足そうに頷いた。
「帝も同じことを仰せでした。」
「忠臣は主を映し、主は忠臣を育てる。」
「その言葉どおりのお方とお見受けいたしました。」
氏治は答える。
「武家のみでは国は治まりませぬ。」
「公家のみでもまた然り。」
「互いに支え合ってこそ、天下は安らぐものと存じます。」
その言葉に、広間は静まり返った。
鷹司当主は目を細める。
「その考え……実に興味深い。」
「坂東には、まだこのような武将がおられたとは。」
真壁と笠間も誇らしげに氏治を見つめる。
やがて鷹司当主は静かに言った。
「左近衛中将殿。」
「これよりは、朝廷と坂東を結ぶ友として、お付き合い願えませぬか。」
氏治は深く一礼した。
「こちらこそ、末永くご教示賜りたく存じます。」
この日を境に、小田家と鷹司家の交流は始まった。
それは単なる武家と公家の交際ではない。
朝廷と坂東を結ぶ、新たな時代の第一歩であった。




