天覧試合決勝
翌日。
天覧試合はいよいよ決勝を迎えた。
もう一方の準決勝では、吉田兄弟の兄が弟との熱戦を制し、決勝へ駒を進めていた。
兄弟ならではの息の知れた攻防は観衆を大いに沸かせ、剣士同士の技比べとして申し分のない一戦であった。
しかし。
決勝の舞台へ立った吉田の兄は、佐野昌綱の姿を見るなり悟る。
昨日までの佐野ではない。
済済道人との死闘は、佐野をさらに一段高みへ押し上げていた。
礼を尽くし、試合が始まる。
吉田は正攻法の剣で攻め立てる。
鋭い踏み込み。
美しい太刀筋。
隙のない連撃。
さすが決勝まで勝ち上がった剣士である。
だが、その剣は佐野に届かない。
受け。
見切り。
打ち返し。
昨日までなら拮抗したであろう攻防が、わずかに佐野へ傾いていた。
済済道人との戦いで得た経験が、相手の起こりを読む速さをさらに研ぎ澄ませていたのである。
二十合。
三十合。
吉田も必死に食らいつく。
しかし、佐野の間合いは崩れない。
そして、吉田が渾身の袈裟斬りを放った、その瞬間。
佐野の木剣が最短の軌道で吉田の木剣を打ち払い、そのまま喉元でぴたりと止まった。
勝負あり。
吉田は木剣を下ろし、静かに頭を下げる。
「完敗です。」
佐野も深く一礼した。
「ありがとうございました。」
試合は剣士同士の決勝にふさわしい、堂々たる一戦であった。
しかし、観衆の多くは同じ思いを抱いていた。
済済道人との死闘を越え、一段成長した佐野昌綱の前では、吉田兄弟でさえ荷が重かった。
それでも吉田の兄は胸を張っていた。
敗れはしたが、自らの剣を出し尽くした悔いはない。
そして天覧試合は、佐野昌綱の優勝をもって幕を閉じた。
だが、人々の記憶に最も深く刻まれたのは、決勝ではなかった。
誰もが語るのは、準決勝。
佐野昌綱と済済道人――のちに「空蝉」と呼ばれる武人との、事実上の決勝戦であった。




