五月吉日、天覧試合開幕
五月吉日。
初夏の陽光が京の町を明るく照らしていた。
この日の都は、朝早くから普段とは違う熱気に包まれている。
「急げ、御所へ遅れるぞ!」
「今年は天覧試合だそうだ。」
「諸国の名剣士が集まるらしい。」
町家の戸が次々と開き、人々は思い思いの装いで通りへ出ていく。
旅姿の武士。
華やかな衣をまとった公家。
白衣姿の神職。
商人に町人、僧侶まで、人波は皆、京都御所を目指していた。
沿道では茶屋が店先に床几を並べ、団子や餅を売る声が響く。
「焼きたてでございます!」
「お茶はいかがですか!」
子どもたちは木の枝を刀に見立て、
「それっ!」
「一本!」
と剣士の真似をして走り回る。
大人たちは笑いながらその姿を眺め、今日という日を楽しんでいた。
京の町は、まるで祭礼の日を迎えたかのような賑わいを見せていた。
その喧騒を抜けた先。
京都御所には、すでに諸国から集まった剣士たちが静かに集結していた。
白砂を敷き詰めた試合場。
四方を囲む竹垣。
その外側には、公家や神職、諸国の武家たちの観覧席が整えられている。
やがて出場者たちは控えの間へ集められた。
役人が木箱を抱えて前へ進み出る。
「これより組み合わせを決める。」
「対戦は、くじ引きによって定める。」
場内が静まり返る。
「一人ずつ前へ。」
剣豪たちは順に木箱へ手を入れ、一枚ずつ木札を引いていく。
誰と当たるか。
それは運だけが知っていた。
佐野昌綱も静かに歩み出る。
木箱へ右手を入れ、一枚の木札を引き抜いた。
その札を握り締めると、静かに一礼して列へ戻る。
控えの間には緊張が漂っていた。
一方、観覧席では思わぬやり取りがあった。
「上泉伊勢守様、こちらのお席へ。」
役人に案内された上泉伊勢守は、目の前の上座を見て苦笑する。
「おいおい。」
「儂は若い者の試合を酒でも飲みながら眺めるつもりだったんだが。」
役人は恐縮しながら頭を下げる。
「天下に名高い上泉様には、ぜひこちらのお席を。」
上泉は頭を掻きながら辺りを見回した。
「一人じゃつまらんな。」
すると、少し離れた場所で静かに立っていた柳生を見つけ、大きく手を振った。
「おい、柳生!」
柳生は驚いて近づいてくる。
「先生、何でしょう。」
「儂一人では退屈だ。」
「今日一日は、お前がお付きだ。」
「隣へ来い。」
柳生は思わず苦笑した。
「私がお付き、ですか。」
「そうだ。」
「一人で酒を飲んでも面白くない。」
「付き合え。」
役人も異論はなく、深く一礼する。
「では、お付きの方もご一緒に。」
こうして、まだ京ではほとんど名の知られていない柳生は、上泉伊勢守のお付きとして上座へ座ることになった。
やがて試合場に静寂が訪れる。
開会を告げる太鼓が、大きく鳴り響いた。
――ドォン。
その一打が、京都御所いっぱいに響き渡る。
いよいよ、帝の御前で競われる天覧試合の幕が上がった。




