京への召命
同窓会も終わりに近づき、卒業生たちは思い思いに旧友との語らいを楽しんでいた。
その時、水戸頼治が静かに立ち上がった。
「佐野昌綱、北畠殿。少しよろしいか。」
二人は顔を見合わせると、水戸の後に続いた。
兵学館の一室。
そこには小田氏治も待っていた。
「失礼いたします。」
三人が一礼すると、氏治は穏やかに頷く。
「楽しい席の途中で呼び立ててすまぬ。」
「だが、お前たちに任せたいことがある。」
昌綱は静かに頭を下げた。
「いかなる御命令でも。」
氏治は一枚の地図を広げる。
そこには京とその周辺が描かれていた。
「坂東はようやく一つにまとまりつつある。」
「次は京だ。」
昌綱は目を上げる。
「京……。」
水戸頼治が続けた。
「朝廷との結びつきは、これからの坂東には欠かせぬ。」
「武だけでは天下は治まらぬ。」
北畠も静かに口を開く。
「公家の礼を知り、武士の誇りを持つ者が必要なのだ。」
氏治は昌綱を真っ直ぐ見据えた。
「昌綱。」
「お前は兵学館で剣だけではなく、礼法、有職故実、神道を学んだ。」
「塚原卜伝より剣を学び、上泉伊勢守より理を学び、そして兵学館では徒手や組討まで修めた。」
「京で、そのすべてを役立てよ。」
昌綱は深く頭を垂れた。
「この命、必ず。」
すると水戸頼治は懐から一本の軍扇を取り出した。
黒漆の骨に、白い紙を張った質実剛健な一振りである。
「昌綱。」
「これを受け取れ。」
昌綱は不思議そうに軍扇を受け取る。
「京では刀を抜けぬ場所が多い。」
「宮中、公家屋敷、寺社……。」
「だが、兵学館で学んだのは剣だけではあるまい。」
昌綱は軍扇を見つめた。
水戸は静かに続ける。
「まず礼を尽くせ。」
「それでもなお帝や公家に危険が及ぶなら、軍扇で制し、組討で抑えよ。」
「刀を抜くのは最後の最後だ。」
北畠も頷く。
「それこそが、これから京で求められる武士だ。」
氏治は静かに告げた。
「水戸、北畠、佐野。」
「三人で新たな組織を興せ。」
「名は――儀仗抜刀隊。」
その名を聞いた三人は、ゆっくりと頭を下げた。
坂東の武が、いま京へ向かおうとしていた。




