兵学館の再会、卒業生たちの新年
坂東大評定は滞りなく終わった。
新年最初の大仕事を終えた諸将は、それぞれ新たな役目を拝命し、表情には期待と責任が入り混じっていた。
しかし、この日ばかりは身分も役職も脇へ置かれる。
兵学館では毎年、新年の評定後に卒業生が集う同窓会が開かれるのである。
「久しいな!」
広間へ最初に飛び込んできたのは、小山義広だった。
「義広!」
那須資忠も笑顔で応じる。
白虎寮で最強を争い続けた二人は、固く拳を打ち合わせた。
「まさか、お前と別々の方面軍になるとはな。」
「俺もそう思った。」
資忠は苦笑した。
「これからは会津か。」
「ああ。お前は下総だ。離れても負けるなよ。」
周囲から笑いが起こる。
「白虎の二枚看板も、とうとう別々か。」
「今度はどちらが多く武功を挙げるか競争だな。」
二人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。
その頃。
「……お、おい。」
顔を真っ赤にしていたのは館林改め、新田義綱である。
「新田殿。」
結城朝基が深々と礼をした。
「いや、やめろ!」
「第一戦功に加え、新田家再興とは実に見事です。」
宇都宮朝綱まで頭を下げる。
「さすがは義綱殿。」
「やめてくれ……。」
さらに朝基は悪戯っぽく笑う。
「それに、近いうちには我らの妹婿になるやもしれませぬな。」
一瞬、広間が静まり返り――。
「おお!」
「そうだった!」
「義綱、顔が赤いぞ!」
笑い声が兵学館いっぱいに響いた。
義綱は耳まで真っ赤にしながら、
「まだ決まっておらん!」
と抗議する。
「否定の仕方が弱いぞ!」
さらに笑いが広がった。
その光景を少し離れて見ていた佐野昌綱は、小さく笑みを浮かべた。
筋骨隆々の身体。
日に焼けた顔。
昭和の名優を思わせる精悍な面立ち。
東国武士そのものの姿だった。
「昌綱。」
水戸頼治が声を掛ける。
「皆と話さぬのか。」
「私は見ているだけで十分です。」
「相変わらずだな。」
その時だった。
昌綱の視線が、青龍寮の席へ向く。
一つだけ空席があった。
誰も座っていない。
誰もが知っていた。
大掾幹康。
兵学館唯一の研究課程へ進み、西洋へ渡った男。
「……まだ帰らぬか。」
朝綱が静かに呟く。
「五、六年は戻れぬと聞く。」
朝基も頷いた。
「今頃は異国の海を見ているのだろう。」
鹿島政清が笑う。
「帰ってきた頃には、我らの船をさらに速くしてくれるさ。」
皆が静かに空席を見つめた。
離れていても、仲間は仲間である。
その空席だけは、誰も埋めようとはしなかった。
やがて水戸頼治が立ち上がる。
「諸君。」
広間が静まる。
「今日は再会を祝う日でもある。」
「しかし、新たな始まりの日でもある。」
その言葉に、卒業生たちは自然と姿勢を正した。
兵学館で育った若き武人たちは、それぞれの道を歩み始める。
そして、この場から新たな歴史が動き始めようとしていた。




