既視の盃
襖が静かに開く。
「お待たせいたしました。」
近習が盆を抱え、香ばしい香りを漂わせる骨酒を運んできた。
宇都宮尚綱の顔がぱっと明るくなる。
「おお! ようやく来たか!」
その声を聞いた瞬間、治彦の胸がどくりと鳴った。
――この台詞。
聞いたことがある。
治彦は思わず氏治を見る。
氏治もまた、治彦を見返していた。
二人の目が合う。
互いに何も言わない。
だが、その表情だけで十分だった。
戻った。
しかも、骨酒が運ばれてくる直前へ。
尚綱はそんな二人の様子など気にも留めず、大声で笑う。
「氏治! 子どもの頃から夢だったんだ!」
「戦に勝った祝いに、お前と骨酒を酌み交わすことがな!」
その言葉に、氏治の瞳がわずかに揺れた。
先ほどと、一字一句違わぬ。
真壁幹久が肩をすくめる。
「何十年も同じことを言っておる。」
小山義広が苦笑する。
「ようやく願いが叶いましたな。」
結城朝基も静かに頷く。
「今日は存分に飲んでください。」
治彦は小さく息を呑んだ。
間違いない。
これは夢ではない。
時が巻き戻っている。
氏治は何事もなかったように盃を取りながら、治彦にだけ聞こえるほどの小さな声で囁いた。
「……お主も気付いたな。」
治彦も表情を変えず、小さく答える。
「はい。」
「今度は、何が起こるんでしょう。」
氏治は静かに骨酒を見つめた。
「分からぬ。」
「だが、今度は最後まで見届けよう。」
二人は再び目を合わせる。
そして何事もなかったかのように、戦友たちの輪へと戻っていった。




