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坂東を結ぶ友

川越合戦が終わっても、下野国南部に平穏は訪れなかった。


武蔵との国境ではなお争いが絶えず、北では上杉方の残党が動き、西では北条が勢力を広げている。


その狭間に立つ小山家は、兵を休める間もなく戦支度を繰り返していた。


館では家臣が報告する。


「また武蔵境にて小競り合いが起こりました。」


当主は静かに目を閉じる。


「……またか。」


「南に北条、西に上杉。」


「我らは常に戦の最前線だ。」


その時、一人の老臣が口を開いた。


「殿。」


「常陸の小田家より、不思議な噂が届いております。」


「幼君・氏治様が、川越合戦で北条の夜襲を言い当てたとか。」


「さらに真壁幹久や宍戸政繁までも心服させたと聞きます。」


当主は苦笑した。


「幼子の噂など尾ひれが付くものだ。」


「しかし……。」


「一度、この目で確かめてみたい。」


視線は広間の隅に控える一人の少年へ向けられた。


「義広。」


「はっ。」


「そなたを小田へ遣わす。」


「遊び相手として過ごし、その若君がどのような人物か見てまいれ。」


義広は深く一礼した。


「承知いたしました。」



数日後。


義広は小田城へ到着した。


迎えに現れたのは、自分と同じくらいの背丈の少年だった。


「ぼくが氏治です!」


屈託のない笑顔だった。


義広も自然と笑みを返す。


その日から二人は毎日を共に過ごした。


朝は真壁幹久の木剣の稽古。


昼は治彦から歴史や兵法を学ぶ。


午後は弓を射て、相撲を取り、城下を歩く。


義広は驚いた。


戦ばかりの毎日しか知らなかった自分とは違い、氏治は人を知り、国を知ることを楽しんでいた。


だが、その穏やかな日々を破るように、小山から早馬が駆け込んでくる。


「急使!」


「武蔵境にて争いが起こりました!」


義広は静かに息をついた。


「またです。」


氏治が尋ねる。


「そんなに多いの?」


「はい。」


「静かになったと思えば、また戦です。」


「父上も家臣も、休む暇がありません。」


氏治はしばらく考えていた。


やがて義広を見て言う。


「だったら。」


「家族になればいいのに。」


「……え?」


義広は首を傾げる。


「ぼくには妹が二人います。」


「大きくなったら、どちらかがお嫁さんになって、小山へ行けば。」


「小田と小山は家族です。」


「家族なら助け合えます。」


「それに、妹は大掾のおば上の子だから、大掾とも家族になります。」


「そうしたら坂東藤原流のみんなが、もっと仲良くなれるでしょう。」


近くで聞いていた家臣たちは思わず笑った。


「ははは。」


「若君らしい。」


「童らしい夢物語ですな。」


しかし、その場で笑わなかった者が三人いた。


真壁幹久。


治彦。


そして、小田城を訪れていた大掾幹家である。


幹家は静かに口を開いた。


「……夢物語ではありませぬ。」


広間が静まり返る。


「小田と小山が婚姻を結べば、小山は大掾とも姻戚となる。」


「常陸南部と下野南部が一つの縁で結ばれる。」


「これは双方にとって大きな利でございます。」


真壁も腕を組んで頷く。


「若君は人を従わせるのでなく、人を結ぶことを考えておられる。」


政治も驚きを隠せなかった。


「そこまで考えていたとは……。」


幹家は続ける。


「殿。」


「婚姻はまだ先の話。」


「ですが、友情は今から育てられます。」


「義広殿を若君の小姓として小田へ詰めさせてはいかがでしょう。」


「寝食を共にし、学び、育った絆は、どのような盟約より強いものになります。」


政治はしばらく考え、静かに頷いた。


「理にかなっている。」


「小山殿がお許しくださるなら、そのようにいたそう。」



ほどなくして小山家から返書が届く。


『義広を若君の傍仕えとしてお願い申し上げる。』


義広は正式に氏治の小姓となった。


「これからよろしくね、義広殿。」


「こちらこそ、氏治様。」


二人は笑顔で手を取り合う。


その姿を見つめながら治彦は静かに思った。


――歴史では、小山は幾度となく大国に翻弄された。


――だが、この世界では違う。


幼き日に結ばれた友情は、やがて坂東を支える強固な同盟となる。


そして義広は後に、堅固な陣地を築き、柔軟な戦術で敵を追い詰める名将として、小田氏治を支える柱の一人となっていくのである。

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