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京への招き

夏の終わり。

小田大学歴史資料館には、一通の公文書が届けられた。

差出人は宮内庁書陵部。

正式な共同調査への招待状である。

治彦は静かに封を閉じると、窓辺に立つ氏治へ目を向けた。

「いよいよですね。」

氏治はゆっくりと頷いた。

「四百年ぶりの都か。」

その表情には懐かしさと、わずかな緊張が入り交じっていた。

数日後。

治彦は新幹線で京都へ向かっていた。

車窓には夏の田園が流れ、やがて街並みは古都の風景へと変わっていく。

氏治は窓の外を眺めながら、小さく笑った。

「余の知る京とは、まるで違う。」

「けれど山並みだけは変わりませんね。」

治彦の言葉に、氏治は静かに頷いた。

「山は人の争いを見続ける。」

「人だけが時代を変えてゆくのだ。」

京都駅へ降り立つと、書陵部の担当研究官が二人を出迎えた。

「小田大学歴史資料館の治彦館長ですね。」

「遠路ありがとうございます。」

挨拶を交わした後、一行は静かな研究施設へ案内される。

館内は空調と照明が徹底管理され、歴史資料を守るための設備が整えられていた。

氏治は感心したように辺りを見渡す。

「今は書物も、城より堅く守られておるのだな。」

担当研究官は微笑んだ。

「文化財は、一度失えば二度と戻りませんから。」

案内された閲覧室の机には、数冊の古文書が並べられていた。

その中の一冊を見た瞬間、氏治の表情が変わる。

淡い茶色に焼けた表紙。

右肩には力強い墨文字で題が記されている。

『関東奏聞録』

さらに、その隣。

『兵学館上覧記』

そして最後に、桐箱へ丁重に納められた一巻の文書。

担当研究官は慎重に桐箱を開いた。

「こちらが今回、共同調査の主目的です。」

静寂が部屋を包む。

現れたのは、折り目一つないまま保存されていた一通の書状だった。

表には、ただ一行だけ。

『朝廷献上意見書 小田氏治自筆』

氏治は息をのんだ。

「……余の筆だ。」

治彦も思わず身を乗り出す。

「覚えがありますか。」

氏治はしばらく黙っていた。

やがて、ゆっくりと首を振る。

「書いたことだけは覚えておる。」

「だが、何を書いたのかだけが思い出せぬ。」

担当研究官は白手袋をはめ、慎重に封を解いた。

「この文書は、これまで一度も全文が調査された記録がありません。」

「封印されたまま、四百年以上保管されていました。」

治彦と氏治は顔を見合わせる。

四百年という時を越え、今まさに開かれようとしている書状。

そこには、氏治が朝廷へ託そうとした最後の理想が記されているのかもしれない。

担当研究官がゆっくりと最初の一枚を広げる。

最初に現れた文字は、誰もが予想していた献上文ではなかった。

大きく記された、その題目は――

『坂東と朝廷、共に国を治むる道について』

治彦は思わず息を止めた。

氏治はその題を見つめ、静かに呟く。

「そうか……。」

「余は、天下を望まなかった理由を、都へ伝えようとしていたのだ。」

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