成果の殿堂
展示室の奥へ進むと、空間が大きく開けた。
中央には坂東一円を再現した巨大な立体模型が据えられている。
山々は精巧に削り出され、利根川や鬼怒川、小貝川は青く輝き、街道には小さな人馬まで配置されていた。
氏治は模型の前で立ち止まる。
「……これは見事だ。」
「坂東そのものではないか。」
治彦は模型の横にある解説板を見つめた。
『十六世紀後半、坂東復興事業』
その下には、小田家が進めた政策が年代順に並んでいる。
・街道整備
・河川改修
・港湾建設
・兵学館設立
・自由都市土浦の建設
・新田・前橋交易圏の形成
・北浦・那珂湊海運網
氏治は苦笑した。
「戦ばかりが歴史に残るものと思っていた。」
「違いましたね。」
治彦も静かに笑う。
「この世界では、戦よりも国づくりのほうが高く評価されています。」
氏治はもう一度模型を眺める。
「嬉しいものだ。」
「人を斬った数ではなく、人を生かしたことが語られるとは。」
その言葉に、治彦は黙って頷いた。
やがて視線は模型の中央へ向かう。
霞ヶ浦のほとり。
土浦の街だけが、一際大きく造られていた。
港には大小さまざまな船が並び、市街地は碁盤目状に整備されている。
「これが土浦か。」
氏治が静かに呟く。
「はい。」
治彦は展示パネルを読み始めた。
「『自由都市土浦は、小田氏治政権最大の経済改革として整備された。十年間の無税政策により全国から商人・職人・学者が集まり、後の東日本経済圏の中心都市となる。』」
氏治は目を丸くした。
「十年の無税が、そこまでの結果を生んだのか。」
「ええ。」
治彦は別の図表を指差した。
そこには人口の推移が描かれている。
建設当初は数千人だった街が、わずか数十年で十万人を超え、その後も拡大を続けていた。
「……驚いた。」
氏治は思わず漏らした。
「私は港町を作るつもりだった。」
「まさか坂東最大の都市になるとは思わなんだ。」
治彦は微笑んだ。
「人は便利な場所へ集まります。」
「そして人が集まれば、さらに技術や文化も集まる。」
「土浦は、その循環を最初に作った街だったんです。」
氏治は模型の土浦をしばらく見つめていた。
やがて、小さく息を吐く。
「これなら、戦で城を一つ落とすよりも価値がある。」
「ええ。」
「だから歴史書では、土浦自由都市は『坂東復興の礎』と評価されています。」
二人は次の展示へ歩き出す。
そこには大きく、
『兵学館――知が国を守る』
と刻まれた扉が待っていた。
氏治は自然と笑みを浮かべる。
「さて。」
「次は、我らの学校を見るとしよう。」
治彦も頷いた。
「はい。」
「ここからが、本当に僕たちらしい展示です。」




