表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
252/1008

三の矢、黒川に終幕を告げる

青鬼・宇都宮尚綱は、この日もなお、らしくない戦いを続けていた。

黒川城の守りは、息子・宇都宮朝綱と那須資忠へ託す。

「朝綱、那須。城は任せた。」

「はっ!」

二人が一礼すると、尚綱は振り返ることなく馬へ跨った。

下野衆の騎兵を率いるのは宇都宮尚綱。

上野衆の騎兵は結城朝基が預かる。

館林は馬場信春、内藤昌豊、跡部ら旧武田衆を率い、戦場後方へ回る。

三隊は互いに距離を保ちながら、蘆名・佐竹軍を挟むように動き始めた。

尚綱はなおも決戦を急がない。

「騎射だ。」

短い命令だけが飛ぶ。

下野衆の騎兵が一斉に矢を放つ。

敵左翼へ。

一度放てば離れ、また寄せて射る。

執拗な騎射に蘆名軍左翼は隊列を乱し始めた。

結城朝基も呼応して上野衆を操り、崩れた左翼へさらに圧力を加える。

敵は左へ引き寄せられ、小田本陣の前面が大きく開いていく。

その隙を逃さず、小田氏治本陣は真壁幹久、宍戸政繁、笠間幹永らを従え、尚綱らの前を追い越すように中央へ進出した。

青鬼は静かに笑う。

「それでよい。」

自らが勝つためではない。

氏治へ道を開くための戦いだった。

一方その頃。

館林は旧武田衆を率い、敵後方へ騎射を浴びせ続けていた。

その頭上では標が大きく旋回している。

いつもなら敵を見つければ真っ直ぐ知らせに来る標が、この時ばかりは右翼上空を何度も旋回し、落ち着かない様子を見せていた。

喜んでいるようにも、警戒しているようにも見える。

館林はその様子を見上げる。

「……右翼か。」

迷いはなかった。

弓へ鏑矢をつがえ、大きく引き絞る。

甲高い音を響かせながら鏑矢は夜空を裂き、右翼へ飛んだ。

その音を聞いた宇都宮尚綱は振り返る。

結城朝基もまた館林の意図を悟った。

「右翼だ!」

尚綱は馬首を返す。

結城も上野衆を率いて続く。

二隊は大きく旋回し、十分な助走を取ると、一気に右翼へ突撃した。

雷鳴のような騎兵突撃が敵右翼へ叩き込まれる。

轟音とともに敵陣は勢いよく割れた。

しかし館林は、なおも突撃しない。

標とともに上空と戦場全体を見渡し続ける。

やがて月明かりを受け、一際豪華な兜が夜空に光を返した。

「いた。」

蘆名盛氏であった。

蘆名は最初から相馬勢を崩し、そのまま右翼から小田本陣の背後へ抜ける腹積もりだったのである。

青鬼が放った一の矢。

結城が重ねた二の矢。

その二本の矢によって割れた敵陣へ――。

館林という、引き絞られた三の矢が真っ直ぐ突き刺さる。

「蘆名、討ち取った!」

館林の槍は蘆名を貫き、この半年余りに及んだ会津大戦へ、ついに終止符を打った。

蘆名軍は総崩れとなる。

敗兵は武器を捨て、四方へ逃げ散った。

その混乱の陰で、佐竹義昭だけは騒ぎに紛れ、わずかな手勢を率いて静かに戦場を離れていた。

目指すは背炙り山。

潜伏し、再起を図るつもりである。

だが、それを見逃す者はいなかった。

夜空高く舞う標だけは、その敗走の行方を最後まで見届けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ