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青鬼が繋いだ刻

宇都宮尚綱らしくない戦いであった。

普段の尚綱であれば、青鬼の異名そのままに槍を構え、一息に敵陣へ斬り込み、勝敗を決してしまう。

しかし、この日の尚綱は違った。

「深追いはするな。騎射で足を止めよ。」

その命だけを繰り返す。

尚綱自身も馬を駆りながら弓を引き、敵へ矢を浴びせる。

前へ出れば射る。

止まれば射る。

陣を整えようとすれば、また射る。

離れては寄せ、寄せては離れる。

まるで獲物を弄ぶ狼のように、執拗な騎射を繰り返した。

馬場信春、内藤昌豊、跡部ら旧武田衆も、その意図を悟り、一斉に騎射で敵を翻弄する。

蘆名・佐竹の兵は黒川城へ戻ろうとするたびに矢を浴び、進むことも退くこともできない。

それでも、いくらかの兵が尚綱の脇をすり抜けて黒川城へ逃れようとした。

だが、尚綱は追わなかった。

「構わぬ。」

「黒川は朝綱に任せてある。」

虎口には宇都宮朝綱が鉄砲隊と弓衆を配置し、守りを固めている。

今の尚綱の役目は、一人でも多く討ち取ることではない。

敵主力をここへ釘付けにし、本隊到着までの刻を稼ぐことであった。

その執拗な騎射に、ついに蘆名・佐竹も耐え切れなくなる。

「これでは城へ帰れぬ!」

「陣を敷け!」

敵は一斉に向きを変え、街道沿いへ槍を並べ、急ぎ迎撃の陣を築き始めた。

尚綱はその様子を見ると、静かに槍へ持ち替えた。

「ようやく止まったか。」

その時である。

戦場の前方では、小山義広が寡兵を率いていち早く到着し、街道を塞ぐように布陣した。

蘆名・佐竹は小山の兵を見て、これを小田軍の先鋒と判断する。

しかし、その背後からさらに大きな土煙が立ち昇った。

幾重にも連なる旗指物。

響き渡る陣太鼓。

ゆっくりと、しかし揺るぎない足取りで、小田氏治本陣が姿を現したのである。

真壁幹久、宍戸政繁、笠間幹永ら本隊が整然と続き、その左右には浜通りを制して駆けつけた相馬勢や鹿島勢ら浜通り衆が旗を並べる。

さらに、中通りを戦い抜いた諸将も続々と戦列へ加わり、白河から須賀川を越えてきた中通り衆が整然と布陣していく。

浜通りと中通り。

二つの戦場を勝ち抜いた軍勢が、小田本陣へ従うように次々と戦場へ集結していく光景は壮観であった。

宇都宮尚綱はその旗を見届けると、満足そうに笑みを浮かべる。

「待っていたぞ、氏治。」

尚綱が命懸けで稼いだ刻は、決して無駄ではなかった。

黒川城は落ち、浜通りも中通りも一つとなり、小田軍の全戦力がついに蘆名・佐竹軍の眼前へ揃ったのである。

決戦の時は、ついに訪れた。

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