背炙り山、因縁の終わり
夜が明ける頃には、勝敗はすでに決していた。
蘆名軍は総崩れとなり、敗兵は四方へ散る。
小田軍の諸将はそれぞれ残党狩りへ向かい、黒川周辺ではなおも散発的な戦が続いていた。
しかし、誰もが気になっていた。
「……佐竹がいない。」
蘆名は討たれた。
だが、佐竹勢の旗も、大将の姿も見当たらない。
その時だった。
標が館林の頭上を大きく旋回し、何度も東の空へ飛び、また戻ってくる。
その先は、背炙り山である。
「どうした、標。」
呼び掛けても標は落ち着かない。
背炙り山へ飛んでは戻り、飛んでは戻る。
やがて業を煮やしたように舞い降りると、館林の肩へ止まり、その頬を鋭く嘴でつついた。
「……そうか。」
館林は静かに頷いた。
「まだ終わっていないな。」
やや独断ではあった。
しかし館林は迷わず旧武田衆へ命じる。
「馬場殿、内藤殿、跡部殿。背炙り山へ向かいます。」
三将は館林の表情を見るだけで事情を察し、何も問わず馬首を東へ向けた。
背炙り山へ至る沢。
冷たい水が岩を伝い、静寂だけが流れていた。
その沢のほとりで、一人の武将が力なく座り込んでいる。
佐竹義宣であった。
戦い続けた疲労と敗北の色が、その背に重くのしかかっている。
武田衆が沢口へ姿を現す。
義宣が顔を上げるより早く、一発の銃声が山へ響いた。
乾いた轟音とともに義宣はその場へ倒れ、そのまま動かなかった。
突然の銃声に、佐竹義重は近くの洞穴へ身を隠す。
息を潜める。
外は静かだった。
追ってくる足音もない。
義重は胸を撫で下ろし、ゆっくりと洞穴の奥へ腰を下ろした。
その時、足元へ転がる一つの木彫りが目に入る。
亀をかたどった、小さな木彫り。
何気なくそれを拾い上げた。
その瞬間だった。
暗闇のさらに奥。
岩陰へ身を伏せていた館林が、静かに引き金へ指を掛ける。
ためらいはなかった。
乾いた銃声は、一発だけ。
狭い洞穴へ鋭く響き渡る。
長く、長く続いた常陸の因縁は、その一発によって終わりを迎えた。
館林はしばらく黙って立ち尽くしていた。
洞穴の外では、標が朝の空を静かに旋回している。
背炙り山を吹き抜ける風だけが、新たな時代の訪れを告げていた。




