山が繋いだ道
洞穴には焚き火の火だけが静かに揺れていた。
三人はようやく同じ火を囲み、背炙山での束の間の休息を得る。
しるべは洞穴の入口近くの岩に止まり、時折羽を整えていた。
朝基は地図を広げると、二人を見渡した。
「まずは互いの状況を確かめよう。」
那須資忠が口を開く。
「浜通りは持ちこたえた。」
館林は顔を上げる。
「小山殿は。」
「小山殿が先頭に立ち、相馬を解放された。蘆名・佐竹勢は退き、浜通りはひとまず安堵している。」
館林は安堵の息を漏らした。
資忠は続ける。
「だが、それから先は分からぬ。」
「私は小山殿より先行を命じられた。浜通りで兵を預け、一人でこちらへ向かった。ゆえに、その後の小山殿の動きは知らぬ。」
朝基は静かに頷いた。
「十分だ。分からぬことを分からぬと言える者ほど信用できる。」
資忠も頷き返した。
すると朝基は尾瀬方面へ指を移した。
「次は我らだ。」
「尾瀬では敵と一度も接敵しておらぬ。」
館林は静かに耳を傾ける。
「あの日、お前が切り開いてくれた山道を使い、そのまま尾瀬を越えた。」
館林は小さく頷いた。
「あの道なら、大軍は通れませんが、少人数なら敵の目を避けられます。」
「その通りだった。」
朝基は微笑む。
「そして、そのまま鴫山城まで到達した。」
館林は思わず顔を上げた。
「鴫山城まで……。」
「城は我らを迎え入れてくれた。」
一瞬、館林は言葉を失う。
「……開いてくれたのですか。」
「ああ。」
朝基は力強く頷く。
「お前が命懸けで切り開いた道は、確かに味方を会津へ導いた。」
館林はしばらく焚き火を見つめていた。
雪を踏み、沢を渡り、幾度も道を失いながら歩き続けた数か月が脳裏をよぎる。
その苦労が無駄ではなかった。
それだけで十分だった。
「……よかった。」
その一言だけが口をついた。
朝基は静かに笑う。
「まだ終わってはおらぬ。」
館林も穏やかに笑みを返した。
「はい。」
朝基は地図を畳み、二人を見据える。
「敵はまだこちらを知らぬ。この静けさを保つ。」
そして立ち上がった。
「館林、資忠。」
「はっ。」
「二人はこの洞穴でしばし休め。」
資忠が尋ねる。
「朝基殿は。」
「私は一度、鴫山城へ戻る。」
腰の刀へ手を添えた。
「兵をいくらか率い、強行偵察へ出る。」
館林はその真意を悟る。
「囮になりますか。」
朝基は静かに頷いた。
「そうだ。」
「敵の目を私へ向ける。」
「そうすれば、お前たち二人の存在は最後まで敵に知られずに済む。」
資忠は眉をひそめた。
「危険なお役目です。」
「だからこそ意味がある。」
朝基は落ち着いた声で答えた。
「館林は山を知り尽くしている。資忠は敵情を知り尽くしている。」
「この二枚の札は、決戦まで伏せておく。」
館林と資忠は同時に頭を下げた。
「承知。」
洞穴の外では、しるべが大きく翼を広げ、夕暮れの背炙山へ舞い上がる。
三人は再び別々の道を歩む。
だが、その道はすべて黒川へと続いていた。
決戦の時は、もう間近まで迫っていた。




