背炙山の再会
館林は沢で那須資忠の無事を確かめたあとも、あえて姿を現さなかった。
山で生きる者ならば分かる。
誰かに尾けられている可能性を捨て切れぬ以上、安易に声を掛けることは互いの潜伏先を晒すことになる。
館林はそのまま山を下り、市中へ向かった。
結城朝基に知らせるためである。
市中では言葉を交わせない。
館林はしるべを朝基のもとへ放った。
しるべは朝基の頭上を何度も旋回すると、山の方へ飛び去る。
朝基はその姿を見ると、小さく笑った。
「館林か。」
協力者へ別れを告げると、朝基はしるべの後を追う。
人目を避け、山道を登り、やがて山伏が岩戸として使っていた岩穴へ辿り着く。
岩陰から館林が姿を現した。
「朝基殿。」
「久しいな。」
二人は短く言葉を交わす。
館林は周囲を確かめてから声を潜めた。
「那須殿を見つけました。」
朝基の表情が引き締まる。
「無事か。」
「はい。ただ、お姿を確認しただけです。声は掛けておりません。」
朝基は満足そうに頷いた。
「それでいい。市中も山も、慎重であるに越したことはない。」
館林は洞穴の方角を指差した。
「今なら戻っている頃かと。」
「急ごう。」
二人は尾根伝いに洞穴へ向かった。
***
それは館林が最初に資忠を見つけてから、ちょうど三日目の夕暮れだった。
洞穴の前には一人の男が腰を下ろしている。
那須資忠である。
その手のひらでは、小さな木彫りの虎がころり、ころりと転がっていた。
足元には亀や鳥の木彫りも並べられ、少し離れたところには削りかけの竜が置かれている。
資忠は苦笑した。
「館林め。虎は見事だが、竜はまだ難しいらしい。」
その時だった。
洞穴の奥から静かな声が響く。
「――久しいな、資忠。」
資忠はゆっくりと顔を上げた。
焚き火の向こうに立っていたのは、結城朝基だった。
一瞬だけ驚いた表情を見せた資忠だったが、やがて穏やかに笑う。
「朝基か。」
朝基も歩み寄り、固く頷く。
「館林が呼んでくれた。ようやく三人が揃ったな。」
館林は洞穴の入口に立ち、静かに頭を下げる。
背炙山で別々に潜み、敵の目を欺き続けた三人は、ようやく同じ焚き火を囲むことができた。
洞穴の外では、しるべが一声高く鳴き、夕暮れの背炙山を悠然と舞っていた。




