背炙り山の策
背炙山の策
大内宿の一室。
囲炉裏の火が静かに揺れ、広げられた地図の上へ赤く影を落としていた。
館林、結城朝綱、朝基の三人は、ようやく合流を果たし、会津への次の一手を協議していた。
館林は地図の北を指でなぞる。
「ここが鴫山城だ。」
朝綱と朝基は視線を落とす。
「蘆名方の要所であり、街道を押さえる城でもある。正面から様子を探れば、こちらの存在を悟られる恐れがある。」
朝綱は静かに頷いた。
「となれば、城を避けるか。」
「いや。」
館林は首を振る。
「鴫山城は越える。ただし、戦うためではない。」
二人が館林を見る。
「目的は黒川だ。敵の本拠へ近づき、兵の動きと補給を探る。そのためには会津へ潜らねばならん。」
朝基は腕を組み、しばらく考え込んでいたが、やがて館林の肩に止まるしるべへ目を向けると、小さく笑った。
「館林殿、その鷹は賢い。」
「そうだな。」
「ですが、市中では目立ちます。」
館林は思わず苦笑した。
朝基は続ける。
「城下へ潜るなら、人混みに紛れねばなりません。鷹を連れた者が歩けば、誰もが振り返るでしょう。」
館林は腕のしるべを見つめ、小さく頷いた。
「確かにその通りだ。」
「ですから、市中への潜入は私が受け持ちます。」
朝基は迷いなく言った。
「私は町へ入り、人の流れや物資、兵の噂を集めます。」
館林は朝基を見つめると、静かに笑みを浮かべた。
「頼もしいな。」
そう言って地図をさらに西へ滑らせ、一つの山を指差した。
「ならば私はここだ。」
指先が止まった場所には、
――背炙山。
「ここへ拠点を置く。」
朝綱が地図を覗き込む。
「街道が一望できますな。」
「ああ。」
館林は頷いた。
「会津へ向かう街道、鴫山城への道、黒川へ向かう兵の往来。この山ならすべて見渡せる。」
館林は背炙山を軽く叩いた。
「しるべにも働いてもらう。空から街道を見張り、兵の出入りを確かめる。」
朝基は頷いた。
「私は中。」
館林も応じる。
「私は外だ。」
二人は顔を見合わせ、自然と笑みを交わした。
朝綱は静かに二人を見つめていたが、やがて口を開く。
「ならば私はここ、大内宿に残ろう。」
二人の視線が朝綱へ集まる。
「兵は少なくとも軍である。規律が乱れれば、この宿にも迷惑がかかる。」
朝綱は宿場の方角へ目を向けた。
「兵の軍規を守り、補給を整え、いつでも動けるよう備える。それが私の役目だ。」
館林は深く頷いた。
「それでこそ朝綱殿だ。」
朝基も笑みを浮かべる。
「兄上が後ろを固めてくだされば、私は安心して潜れます。」
三人は地図の上へ手を置いた。
大内宿を基点とし、背炙山から外を監視する館林。
黒川へ潜り、市中から敵情を探る朝基。
そして兵を束ね、大内宿を守る朝綱。
役目は違えど、その志は一つだった。
会津攻略への静かな第一歩が、今まさに踏み出されようとしていた。




