浜通りの旗
相馬奪還の報は、風よりも早く浜通りを駆け抜けた。
狼煙は次の狼煙を呼び、早馬は昼夜を問わず街道を走る。
「蘆名・佐竹軍敗走。」
「相馬、解放。」
「浜通りの諸将、相馬へ集結されたし。」
その知らせは、山へ身を潜めていた国人たちの耳にも届いた。
城を追われた者。
降伏を装い機会を窺っていた者。
家臣を失いながらも再起を諦めなかった者。
皆、一様に相馬を目指した。
数日後。
相馬城の本丸には浜通り各地の旗印が並び立っていた。
相馬。
岩城。
楢葉。
富岡。
浪江。
海沿いの国人や地侍たちが、それぞれの兵を率いて集結する。
広間には静かな緊張が漂っていた。
やがて小山義広がゆっくりと立ち上がる。
「諸将。」
低く響く声が広間を包んだ。
「私は小田家の総大将としてここへ来た。」
「だが、今日より違う。」
小山は相馬家の旗を見つめる。
「浜通りは浜通りの者たちが守る地である。」
「小田が奪う地ではない。」
「ゆえに私は、この軍を浜通り解放軍と名付ける。」
広間は静まり返る。
「そして私は、その総大将を務めよう。」
「ただし、この軍の旗印は小田ではない。」
小山は相馬家の旗へ歩み寄る。
「相馬である。」
「相馬こそ、浜通り解放の象徴。」
「この旗の下、共に戦っていただきたい。」
しばし沈黙が流れた。
やがて一人、また一人と諸将が膝をつく。
「異議なし。」
「浜通りを取り戻しましょう。」
「我らも従います。」
その声は次第に広がり、広間に集った諸将すべてが頭を垂れた。
こうして浜通りは、初めて一つの旗の下に結ばれた。
その夜、小山は密かに一人の将を呼び寄せる。
那須であった。
「相馬は任せよ。」
「諸将が集まるまで、私はここを動かぬ。」
小山は会津方面を指差す。
「だが、敵に立ち直る暇は与えられん。」
「お前は少数を率いて先へ進め。」
那須は静かに頷く。
「黒川城までの道を探れ。」
「敵の動きを見極め、時が来たら知らせよ。」
「承知いたしました。」
夜明け前。
那須は選び抜いた兵だけを従え、弓を背に阿武隈の山々へ馬を進めた。
浜通りの旗が一つにまとまるその陰で、会津への静かな戦いが始まろうとしていた。




