新春大評定 ――弱冠の賀、そして戦雲
新年。
白く雪化粧した土浦城は、夜明け前から人で溢れていた。
坂東はもちろん、浜通り、中通り、下野、上野、さらには奥羽各地からも使者が続々と到着する。
今日は坂東の新年大評定。
そしてもう一つ、小田氏治が弱冠を迎えた祝いの日でもあった。
城門をくぐる使者たちは、皆が祝いの品を携えている。
名刀、名馬、名工の甲冑、金銀、反物、書画、薬草、南蛮渡来の品。
運び込まれた品は広間だけでは収まりきらず、廊下へ、隣室へと積み上げられていった。
「浜通り諸将より献上。」
「中通り諸将より祝いの品。」
「白河より。」
「相馬より。」
次々と名が読み上げられるたび、家臣たちは驚きの表情を浮かべる。
やがて東北諸将の使者たちが、一斉に氏治の前へ進み出た。
誰からともなく膝をつき、深々と頭を垂れる。
「氏治様。」
「どうか今度こそ、我らをお導きください。」
「小田家への臣従をお許し願います。」
広間は静まり返った。
氏治はしばらく黙したまま、一人ひとりの顔を見渡す。
そして静かに口を開いた。
「皆の志、ありがたく受けよう。」
「だが小田は、武で従わせる国ではない。」
「ともに国を富ませ、ともに民を守る者として歩もう。」
その言葉に、使者たちは再び深く頭を下げた。
万歳の声が上がり、広間は祝賀の拍手に包まれる。
誰もが、坂東の新たな時代の到来を感じていた。
――その頃。
雪深い会津、黒々とした蘆名の本城。
一人の早馬が庭へ飛び込んだ。
「急報! 坂東より急報!」
使者は息を切らしながら書状を差し出す。
蘆名当主は封を切り、読み進める。
その表情が、みるみる険しく変わっていく。
「……東北諸将が、小田へ臣従だと。」
広間が凍りつく。
さらに続きが読み上げられる。
「氏治弱冠の祝いには献上品が城に収まりきらず、浜通り、中通りの諸将までこれを祝い、小田への帰順を願い出たとのこと。」
その瞬間――。
蘆名は書状を握り潰した。
「ふざけるなッ!!」
怒声が城中へ響き渡る。
「我らが飢えと冷夏に苦しむ間に、奴は米と銭で東北を奪うというのか!」
居並ぶ重臣たちも顔色を失った。
その隣では、敗れて会津へ落ち延びた佐竹の将たちも拳を震わせている。
「……また奪われる。」
「坂東を失い、今度は東北まで奴のものになるというのか。」
一人が刀を掴み、畳へ叩きつけた。
「待てば待つほど小田は肥える!」
「五カ年計画が成れば、誰が奴を止められる!」
蘆名は立ち上がる。
怒りに燃える眼差しで家臣を見渡した。
「もう待たぬ。」
「雪が解け次第、総動員だ。」
「小田が完成する前に叩く!」
その言葉に佐竹の将も立ち上がる。
「この戦、我らも命を懸ける。」
祝賀に沸く土浦。
怒号に震える会津。
同じ新年を迎えながら、その空気はあまりにも対照的であった。
こうして弱冠の祝いは、皮肉にも五カ年計画の完成を待たずして蘆名と佐竹を激怒させることとなる。
雪解けとともに始まる「坂東・会津の陣」は、この日、この瞬間に始まっていたのである。




