正月評定 ――青龍、旅立ちの課題
新年の賀儀が終わると、小田城では年初の評定が開かれた。
内政、交易、築城、兵備――。
例年どおり数々の議題が話し合われたあと、水戸頼治が静かに口を開く。
「もう一つ。兵学館についてにございます。」
評定の空気がわずかに変わる。
「本年九月、兵学館第一期生が卒業いたします。」
氏治は静かに頷いた。
四年前、土浦城を仮校舎として始まった兵学館。
築城の土運びすら授業としたあの学び舎も、ついに最初の卒業生を送り出す時を迎えていた。
学長モンケが続ける。
「卒業に際しては、各々が論文を提出いたします。その内容と日頃の成績を合わせ、首席と次席を定めます。」
異論はなかった。
兵法だけではなく、政治、築城、農政、交易。
何を学び、何を国へ還元するか。
それを文章で示すこともまた、兵学館の学びである。
「そして、進級者についてですが……。」
場が静まり返る。
兵学館は五年制。
だが卒業後も残り、さらに学ぶ者は極めて少ない。
水戸は一枚の書付を開いた。
「進級者は一名。」
「青龍寮初代寮長、大掾義康。」
家臣たちは静かに頷く。
誰も驚かなかった。
白虎にも朱雀にも玄武にも優秀な者はいる。
だが、多くは家督を継ぐため領国へ戻らねばならず、新設された銃盾隊や海軍、築城奉行など、それぞれの任がすでに決まっていた。
その中で、大掾義康だけは違う。
祖父も父もなお壮健にして現役。
家を預かるにはまだ猶予があり、さらに学ぶ時間が残されていた。
氏治は義康へ目を向ける。
「進級、おめでとう。」
義康は深く頭を下げた。
「ありがたき幸せ。」
「だが。」
氏治は言葉を続ける。
「進級した者には課題がいる。」
「これまでは己で課題を選ばせた。」
「しかし、おぬしには余が課す。」
義康は姿勢を正した。
評定の間は静まり返る。
氏治はゆっくりと口を開いた。
「なんとかして、西方へ至れ。」
誰も意味を測りかねた。
西方。
京か。
堺か。
九州か。
氏治はさらに続ける。
「そして――南蛮人の国を観よ。」
その一言だけだった。
義康は目を見開く。
評定の間にもざわめきが走る。
海を越えた異国。
書物ではなく、自らの目で見よというのである。
氏治は静かに言った。
「人から聞いた国と、自ら見た国は違う。」
「坂東は、いずれ日の本だけでは立ちゆかぬ。」
「その時、おぬしの見聞が国を救う。」
義康は深く頭を垂れた。
「必ずや、この目で見てまいります。」
その返答に、氏治はただ一度だけ頷いた。
兵学館初の進級生には、誰も歩んだことのない道が用意されていた。




