夏の大評定 ―東北の盟友たち―
夏の日差しが兵学館の白壁を照らしていた。
土浦の霞浦兵学館。その大講堂には、小田家の重臣だけではなく、白河、岩城、相馬、そして浜通りや中通りから訪れた使者たちの姿もあった。
彼らは末席に静かに並びながらも、その眼差しには期待が宿っている。
氏治は壇上からゆっくりと一同を見渡した。
「では東北について申されよ。」
氏治が促すと、最初に立ち上がったのは浜通りの使者だった。
「殿。我ら浜通りの者ども、白河、中通りの者どもも、小田家と末永く誼を結びとうございます。」
続いて岩城の使者が深く頭を下げる。
「小田と通じた土地は、市が立ち、人が集まり、船が行き交います。皆、その噂を耳にしております。」
さらに相馬の使者も口を開いた。
「一方で、佐竹と通じれば戦に駆り出され、蘆名と結べばまた戦に備える毎日。民は疲れ果てております。」
講堂は静まり返った。
使者はさらに続ける。
「殿にお会いさせたい仲間が、まだ数多くおります。」
氏治はしばらく考え、静かに首を横へ振った。
「まだ、その時ではない。」
期待に満ちていた使者たちは少しだけ肩を落とす。
しかし氏治は穏やかに言葉を続けた。
「焦れば縁も壊れる。まずは互いに富み、互いを知ることが先だ。」
氏治は地図の東北へと視線を向けた。
「浜通りでは船を造り、海を往来せよ。」
「中通りや白河では芋を育て、牛を増やし、養蚕を盛んにせよ。」
「海と山、それぞれの強みを生かせばよい。」
そして水戸頼治と鹿島政道へ目を向ける。
「分からぬことは水戸に聞け。外交や政は頼治が助けよう。」
「船や港、商いのことは鹿島に聞け。海のことならば右に出る者はおらぬ。」
二人は静かに頭を下げた。
使者たちの表情が次第に明るくなっていく。
氏治は最後に穏やかな笑みを浮かべた。
「小田は力で従わせる国ではない。豊かさで友となる国でありたい。」
その一言に、東北の使者たちは深々と頭を垂れた。
「ありがたき幸せ。」
その日、兵学館の評定には新たな国が加わったわけではない。
しかし、海を越え、山を越え、人と人を結ぶ道筋は確かに開かれた。
こうして夏の大評定において、武ではなく交易と産業を軸とした小田家の東北政策は、大きく前進することとなった。




