坂東を巡る書状
夏の訪れとともに、大評定を間近に控えた土浦城には、まるで示し合わせたかのように各地の将から書状が相次いで届き始めた。
最初に届いたのは、上野を預かる結城朝綱からであった。
「上野は坂東の西を守る要にございます。」
「されど、いまだ拠点が足りませぬ。」
「街道と河川を押さえる新たな城を築きたく存じます。」
「つきましては、築城に長けた異国の傭兵団をしばらくお貸しいただきたくお願い申し上げます。」
築くのは戦のためだけではない。
平時は市を開き、倉を置き、街道を守る城としたいと結城は記していた。
続いて鹿島政道からの書状が開かれる。
「ブルネイでの商いは、ことのほか順調にございます。」
「鼈甲、宝玉、香料など、これまで坂東では見られぬ品が集まり始めました。」
「商人たちも坂東との取引を望み、航路は日に日に賑わっております。」
だが、その筆は途中から重くなる。
「一方、明では各地に戦乱の兆しありとの風聞が絶えませぬ。」
「学者、職人、商人の中には、安住の地を求め坂東へ渡ろうとする者も現れ始めております。」
「中には大いなる才を持つ者もいるとのこと。」
「受け入れるべきか、それとも慎重に見極めるべきか。」
「殿のご裁断を仰ぎたく存じます。」
氏治はしばらくその一節を見つめた。
戦乱は災いである。
しかし、人の流れは国を変える力ともなる。
最後は水戸頼治からであった。
「浜通りでは、小田家との交易を望む者が日増しに増えております。」
「佐竹に戦へ駆り出された者たちの恨みは深く、坂東へ心を寄せる者が少なくありません。」
さらに書状は続く。
「蘆名から遠き土地柄ゆえ、その影響も及びにくく、かつて敵対した過去があるにもかかわらず、今では表立って小田家へ味方する者まで現れております。」
「交易を願う者、坂東藤原流への参加を望む者、移り住みたいと願う者、その数は日に日に増えております。」
「今後の扱いにつき、ご指示を賜りたく存じます。」
三通の書状を読み終えた氏治は、静かに机へ並べた。
西では城を求める声。
南では海を越えた富と人の流れ。
北では新たな味方を望む者たち。
どれも戦ではなく、坂東という国が大きくなったからこそ届く知らせであった。
氏治はゆっくりと立ち上がる。
「今年の大評定は忙しくなるな。」
その一言に、治彦は静かに頷いた。
「ええ。坂東はいよいよ、一国を治める評定から、一つの地域を導く評定へ変わろうとしています。」




