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盟友の城

屏風の奥には、薄暗い映像展示室があった。


入口には、静かに題字が掲げられている。


『盟友・小田朝久 宇都宮家の記録』


治彦と氏治は並んで中へ入った。


照明が落ちる。


正面いっぱいの大画面に、宇都宮城の評定の間が映し出された。


「小田朝久殿より使者にございます。」


家臣が書状を差し出す。


宇都宮成綱は静かに封を切り、文を読み終えると家臣たちを見回した。


「古河へ参る。」


重臣の一人が進み出る。


「されど、諸家の思惑が交わる評定。危うき場にございましょう。」


成綱は穏やかに頷いた。


「だからこそ参る。」


「小田朝久殿が動く以上、坂東のために違いない。」


映像は古河御所へ移る。


張り詰めた評定の間。


諸将が互いを牽制する中、朝久だけは終始冷静に坂東の安寧を説いていた。


宇都宮方の記録役は、その姿を一文字も漏らすまいと筆を走らせる。


『小田朝久、私利を語らず。終始、坂東の安寧のみを論ず。』


やがて映像は暗転し、夜の戦場へ。


宇都宮勢は後方より戦況を見守る。


闇を縫うように進む小田軍。


結城勢が先陣を切り、小山勢が側面を押さえ、本隊が一気に敵陣へ雪崩れ込む。


炎が夜空を焦がした。


宇都宮の武将が思わず息を呑む。


「見事だ……。」


「これほど統率された夜襲は見たことがない。」


夜明け。


勝利の声が戦場に響く。


宇都宮勢も朝久のもとへ駆け寄る。


その瞬間。


空が黒雲に覆われた。


轟音。


天を裂いた稲妻が、朝久へと真っ直ぐ落ちる。


「朝久殿!」


成綱は駆け寄り、その身体を抱き起こした。


朝久はかすかに目を開き、微笑む。


「……成綱殿。」


「坂東を……頼みます。」


成綱は涙をこらえながら深く頷いた。


「お任せください。」


「あなたの志は、宇都宮が守ります。」


朝久は満足そうに天を見上げ、そのまま静かに息を引き取った。


画面は暗転する。


最後に映し出されたのは、宇都宮家に伝わる一文。


『朝久殿、戦に敗れずして天命に殉ず。その志、宇都宮家永く忘るることなし。』


映像が終わる。


展示室は静寂に包まれた。


治彦は目を閉じ、小さく息を吐く。


「朝久公……。」


その時だった。


――リン。


どこからともなく、澄んだ鈴の音が響いた。


展示室の奥には、宇都宮二荒山神社を紹介する展示がある。


神鏡の前に置かれた鈴が、風もないのに静かに揺れていた。


亡霊氏治が眉をひそめる。


「……何だ?」


治彦が振り返る。


「氏治公?」


氏治の足元から、淡い白い光が立ち昇り始めていた。


「これは……。」


氏治自身が驚いた表情を浮かべる。


光は足元から身体を包み、指先が霞のように透け始める。


「氏治公!」


治彦は思わず駆け寄った。


「待ってください!」


氏治は自らの手を見つめ、低く呟く。


「違う……。」


「これは成仏ではない。」


「何かに……引かれて――」


言葉は最後まで続かなかった。


光が一気に強まり、氏治の姿を包み込む。


「治彦!」


氏治が手を伸ばす。


治彦も必死にその手を掴もうとした。


しかし、その指先は光をすり抜ける。


「氏治公!」


眩い閃光が展示室を満たした。


思わず目を閉じる。


数秒後。


恐る恐る目を開くと、そこにはもう誰もいなかった。


「……氏治公?」


返事はない。


周囲では観光客たちが展示を眺め、子どもたちが映像の感想を話している。


誰一人、異変には気付いていなかった。


治彦だけが、呆然と立ち尽くしていた。


「どこへ……。」


その問いに答える者はいない。


ただ展示室の片隅で、宇都宮二荒山神社の鈴が、もう一度だけ静かに鳴った。


――リン。


その音は、別れを告げるものではなかった。


遠い戦国の世で、始まろうとしている新たな運命を告げる合図だったとは、この時の治彦はまだ知る由もなかった。

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