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春風薫る御前試合 ― 白虎と玄武、兵学館最高の一戦

五月半ば。

霞ヶ浦から吹く風は若葉を揺らし、兵学館は朝から祭りのような賑わいに包まれていた。

昨年は三国同盟戦役のため中止となった御前試合。

氏治もこの一年、評定や研究視察、新式兵器の確認など公務では幾度も兵学館を訪れていた。

しかし、そのたびに向かう先は研究棟や教室、工房ばかり。

学生たちが汗を流す競技場へ足を運ぶのは、実に久しぶりであった。

今日は政務の日ではない。

兵学館で学ぶ若者たちの一年間の成果を見届ける日である。

小田城から氏治の一行が兵学館へ到着すると、正門では学長モンケと寮監・治彦が深く頭を下げた。

「殿、本日は御前試合へようこそお越しくださいました。」

氏治は笑みを浮かべる。

「今日は政務を忘れ、一日楽しませてもらおう。」

その右には北条家の早川殿。

左には武田家の黄梅院。

二人も御前試合を心待ちにしていた。

「それでは、ご案内いたします。」

モンケに導かれ、一行は競技場へ向かう。

巨大な門がゆっくりと開く。

その瞬間――

法螺貝が高らかに鳴り響いた。

競技場を埋め尽くした学生、教官、町人、商人たちが一斉に立ち上がる。

四寮の学生たちは槍を胸の前へ揃え、深く一礼した。

「殿!」

「御来校、誠にありがとうございます!」

何千という人々が同時に頭を垂れる。

早川殿は思わず息を呑んだ。

「すごい……。」

黄梅院も静かに競技場を見渡す。

「皆様がこの日をどれほど待っていたか伝わってまいります。」

氏治は少し照れくさそうに右手を上げた。

「皆、面を上げよ。」

「今日は礼よりも、存分に競い合う姿を見せてほしい。」

その言葉に競技場は大きな拍手と歓声に包まれた。

一行は新設された屋根付きの特別貴賓席へ案内される。

中央には氏治。

右には早川殿。

左には黄梅院。

そして氏治のすぐ後ろには、この日の解説役として二人の若き寮長が控えていた。

青龍寮長・大掾幹康。

そして朱雀寮長・結城朝綱である。

朝綱は宇都宮家の養子となった俊英であり、兵学館では騎馬戦術を学ぶ学生たちを率いていた。

もっとも、二人とも実戦経験はまだない。

兵学館には一つの厳しい掟があるからである。

兵学館へ入学した者は、卒業するか正式に退学するまで戦役への参加を禁ずる。

未来を担う人材を戦で失わぬための掟。

そして戦を理由に退学した者は、二度と兵学館へ戻ることは許されず、永久に除籍となる。

学ぶと決めた者は、最後まで学び抜く。

それが兵学館の誇りだった。

早川殿は感心したように呟く。

「だから皆さん、お若いのに落ち着いていらっしゃるのですね。」

治彦は笑って頷く。

「兵学館は、今の戦より十年後の坂東を強くするための学校です。」

氏治も静かに続けた。

「彼らはまだ学生だ。」

「だからこそ安心して失敗し、学び、競い合える。」

「戦場へ出るのは、その全てを修めてからでよい。」

法螺貝が再び競技場へ響く。

モンケが中央へ歩み出た。

「これより兵学館御前試合を執り行う!」

場内が静まり返る。

「本日の対戦は――」

「昨年度馬庭球年間王者、白虎寮!」

大歓声が湧き上がる。

「対するは――」

「氏治杯王者、玄武寮!」

こちらにも大きな拍手が送られる。

年間を通じて最も強かった白虎。

氏治不在の御前試合を制した玄武。

兵学館最高峰の好取組を前に、競技場の熱気は一気に最高潮へ達した。

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