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カフェ・ガレオンの午後

春の陽気が土浦の町を包む頃。

氏治は約束どおり、早川殿と黄梅院を連れて自由都市土浦を訪れていた。

同行するのは真壁、笠間をはじめとする護衛たち。

主君に加え、北条家と武田家の姫君が揃う以上、警備は自然と厳重になる。

そんな一行が向かった先は、今や土浦一番の名所となったカフェ・ガレオンだった。

街の中央に鎮座する、本物のガレオン船。

初めて目にする早川殿は思わず声を上げた。

「本当に船です!」

黄梅院も目を丸くする。

「まさか街中に、このようなものを……。」

氏治は苦笑する。

「青龍寮が『面白そうだから』と言い出しまして。」

「治彦殿が図面を描き、宍戸殿が本当に建ててしまいました。」

黄梅院は思わず笑う。

「坂東らしいお話ですね。」

店へ入ると、青龍寮の寮生たちが駆け寄ってきた。

「殿、ようこそ!」

しかし、二人の姫君の姿を見るや、一斉に姿勢を正した。

「北条家早川殿。」

「武田家黄梅院様。」

「お目通り叶い、恐悦至極にございます。」

学生たちは深く平伏する。

氏治は困ったように笑った。

「今日は評定ではありません。」

「そのままでいいですよ。」

寮生たちは顔を見合わせる。

「ですが……。」

「せっかく兵学館へ来たのです。」

「学生らしく迎えてください。」

その一言で、青龍寮の空気はいつもの柔らかさを取り戻した。

さらに寮長・大掾幹康が真壁へ近付く。

「真壁様。」

「店内の護衛は我々学生が引き受けます。」

「外は引き続きお願いいたします。」

真壁は少し驚いたが、店内を見回して頷く。

「分かった。」

「頼むぞ。」

こうして甲板や船室には、さりげなく青龍寮の学生たちが配置される。

談笑しているように見えながら周囲へ目を配る。

給仕をしながら出入口を確認する。

普段の接客が、そのまま警備にもなっていた。

おかげで店内の空気は一気に和らぐ。

やがて坂東ジンジャーエールとレモンスカッシュ、それに焼き菓子が運ばれてきた。

早川殿は目を輝かせる。

「しゅわしゅわしています!」

黄梅院も恐る恐る口に運び、静かに微笑んだ。

「爽やかなお味ですね。」

「甲斐では飲んだことがありません。」

その後も二人は異国の菓子や土浦の話で盛り上がっていく。

早川殿は明るく次々と質問し、

黄梅院は穏やかに答えを返す。

性格はまるで正反対。

天真爛漫な早川殿。

静かで思慮深い黄梅院。

それなのに不思議と話が合う。

笑い声が絶えない。

いつの間にか氏治は話へ入る隙を失っていた。

「氏治様。」

「これをご覧ください。」

「氏治様、こちらも美味しいですよ。」

そう言われることもなく、二人だけで楽しそうに話している。

氏治は少し寂しそうに笑った。

その様子を見た笠間が小声で囁く。

「殿。」

「仲間外れですな。」

氏治も苦笑する。

「そうですね。」

「でも。」

二人が笑い合う姿を見つめながら続けた。

「安心しました。」

「本当に。」

「二人が仲良くしてくれるなら、それが一番です。」

その表情はどこか嬉しそうだった。

一方、給仕をしていた青龍寮の学生たちは、内心で驚きを隠せなかった。

(あのお二人が……。)

(殿の正室と側室。)

(なんてお美しい方々だ。)

しかし、その二人は気取ることなく、学生が勧める菓子を食べ、新しい飲み物に驚き、楽しそうに笑っている。

青龍寮の一人がそっと呟いた。

「殿がお似合いになる理由が分かる気がする。」

その日のカフェ・ガレオンは、いつも以上に笑顔が溢れていた。

大名も姫も。

学生も職人も。

身分の違いを忘れ、同じ船の中で語らう。

まるで兵学館の学生時代に戻ったかのような、穏やかで温かな午後が、土浦の新名所には静かに流れていた。

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