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技術評定ーー百丁が示す未来

十二月。


北浦温泉で一か月の強制休養を終えた治彦は、ようやく兵学館へ戻ってきた。


「寮監、お帰りなさい!」


白虎寮と玄武寮の寮生たちが一斉に頭を下げる。


工房へ足を踏み入れた治彦は思わず足を止めた。


机の上には、分厚い帳面が山のように積まれていたのである。


陳猛哲が笑う。


「休んでいる間も、皆遊んでいたわけではありません。」


モンケも頷く。


「今日は技術評定です。」


「あなたが残した図面を、皆で形にしました。」


氏治をはじめ、宇都宮、真壁、宍戸、結城朝基、武田旧臣、白虎・玄武両寮の教員や寮生、さらに土浦へ移住したルソンの銃工、相模の刀鍛冶たちまで集まり、工房は熱気に包まれていた。


最初に玄武寮が前へ出る。


朝基が帳面を開いた。


「まずは統計です。」


そこには勢力ごとの題名が並ぶ。


坂東筒 百丁


武田筒 百丁


北条筒 百丁


上杉筒 百丁


堺製火縄銃 百丁


国友製火縄銃 百丁


南蛮筒 百丁


さらに最後には、


新式坂東長筒 百丁


と記されていた。


場がざわめく。


朝基は続けた。


「各勢力から百丁ずつ集め、同一条件で試射を繰り返しました。」


「命中率。」


「有効射程。」


「最長有効距離。」


「装填時間。」


「暴発率。」


「故障率。」


「すべて記録しております。」


帳面が次々と開かれる。


数字が並び、比較表が現れる。


治彦は静かに読み進めた。


そして、ふっと笑った。


「やっぱり。」


皆が治彦を見る。


「坂東筒は特別な銃じゃない。」


「標準化された銃だ。」


工房が静まり返る。


治彦は帳面を指差した。


「百丁の平均。」


「これが一番大事なんだ。」


「平均命中率。」


「平均有効射程。」


「平均最長有効距離。」


「全部、坂東筒が一番高い。」


陳猛哲が頷く。


「しかし、一丁だけ見れば坂東筒を超えるものもあります。」


「あります。」


治彦は別の帳面を開く。


堺製。


国友製。


武田筒。


確かに一部には坂東筒を超える驚異的な記録があった。


「でも。」


「これは奇跡の一丁。」


「名工が偶然作った名品だ。」


ページをめくる。


同じ工房で作られた別の銃は性能が大きく落ちている。


「百丁集めたら平均へ戻る。」


「坂東筒は違う。」


「百丁あれば百丁とも高い水準なんだ。」


玄武寮の寮生たちが深く頷いた。


数字は嘘をつかなかった。


続いて白虎寮が試作品を運び込む。


最初は一枚の大盾。


しかし上には竹で組まれた骨組みが付き、その上へ油を染み込ませた獣革が張られていた。


「盾用天蓋です。」


職人が天蓋を広げる。


屋根のような覆いが現れた。


試験として上から水を流す。


火皿へは一滴も落ちない。


「行軍中も射撃中も、雨を大きく防げます。」


宍戸が何度も頷いた。


「竹を使ったことで軽い。」


「実戦でも十分使える。」


続いて一本の長銃が運ばれる。


「新式坂東長筒。」


従来より長い銃身。


それでいて重心は変わらない。


試射場では遠距離の的を次々と撃ち抜く。


朝基が統計を読み上げた。


「命中率は従来型と同等。」


「暴発率も変化なし。」


「故障率も同等。」


「しかし。」


「平均有効射程。」


「平均最長有効距離。」


「どちらも従来型を大きく上回りました。」


治彦は静かに笑う。


「これなら正式採用できる。」


三つ目は厚い牛革で作られた袋だった。


「坂東筒袋です。」


肩へ掛ける。


背負う。


内側には油紙。


外には火縄、早合、火薬袋を納める小袋。


「行軍では銃全体を守ります。」


「泥や雨を避け、戦闘直前に抜けばすぐ撃てます。」


陳猛哲が革を触る。


「これなら補給も楽になりますな。」


最後に小さな木箱が開かれた。


中には一本の短い銃。


「試作ホイールロック短筒。」


氏治が慎重に手に取る。


「これが。」


治彦は頷いた。


「長筒じゃありません。」


「ホイールロックは短筒として使うべきです。」


「騎兵が接近し、一撃を放つ。」


「そのための武器です。」


歯車を回す。


火縄はない。


乾いた音とともに試射は成功した。


武田信繁が目を丸くする。


「馬上でも扱えそうです。」


「そのために作りました。」


治彦は静かに答えた。


すべての報告が終わると、工房は静まり返った。


氏治は机の上へ並ぶ試作品をゆっくり見渡す。


新式坂東長筒。


盾用天蓋。


坂東筒袋。


試作ホイールロック短筒。


そして、それらを裏付ける百丁単位の膨大な試射記録。


氏治は蜈蚣切へ手を添えた。


「これまで戦は、武勇と経験で勝ってきた。」


「だが坂東は違う。」


「百人の知恵を集め。」


「百丁を撃ち比べ。」


「数で兵器を磨く。」


「これからの戦は、勘ではなく積み重ねが勝敗を決める。」


治彦は静かに頷いた。


「一人の天才より。」


「百人が同じ物を作れる方が強い。」


その言葉に、白虎寮も玄武寮も、そして工房に集まった職人たちも静かに頭を下げた。


この日、兵学館は新たな時代へ踏み出した。


経験だけに頼る鍛冶場ではない。


理論と実験、そして統計によって兵器を育てる。


それこそが坂東兵学館、白虎寮が目指す新しいものづくりの姿であった。

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