夢の中の騎馬隊
それから数日後。
治彦は、また机へ突っ伏した。
誰も驚かない。
「またですか。」
「またですね。」
白虎寮では半ば恒例となっていた。
夢だった。
二〇〇〇年代。
金曜日。
珍しく定時で仕事が終わる。
「今日は早い!」
治彦は思わず笑顔になる。
火縄銃の売れ行きは好調。
秋になって晴れの日が続き、例の「雨の日に撃てません」という問い合わせも激減していた。
「秋っていい季節だな。」
帰りに弁当と酒を買い込み、足取りも軽い。
「今日は家でゆっくり映画でも観よう。」
テレビをつける。
『金曜映画ショー』
今日の映画は西部劇だった。
『沈黙の騎馬隊』
画面の中では主人公スティーブンス・ザンヌが馬を駆り、悪党を次々となぎ倒していく。
「かっこいい!」
治彦は思わず身を乗り出す。
主人公は懐から二丁の拳銃を抜いた。
パン!
パン!
乾いた銃声が響く。
敵が次々と倒れていく。
「二丁拳銃かぁ。」
治彦はぼんやり呟く。
「……待てよ。」
「火縄がない。」
「ってことは……。」
「ホイールロックか。」
「いや、フリントロックか。」
映画は終盤へ進む。
主人公は馬へ飛び乗り、そのまま疾走しながら拳銃を撃ち続ける。
その瞬間だった。
治彦の頭の中で何かが繋がった。
「違う!」
「違う違う違う!」
「長筒じゃない!」
「ホイールロックの答えは……!」
「短筒だ!!」
「騎兵用だ!」
「これなら火縄はいらない!」
「馬上でも撃てる!」
「これこそ本来の使い方じゃないか!!」
「うわああああっ!!」
「治彦!」
大きな声で目を開く。
そこは兵学館ではなかった。
氏治が心配そうな顔で覗き込んでいる。
「ようやく起きた。」
治彦はまだ夢の続きを見ているような顔で周囲を見回した。
「殿!」
「思いつきました!」
机には殴り書きの設計図が散らばっている。
眠りに落ちる直前まで描いていたらしい。
その一枚を掴み、氏治へ差し出した。
表には大きく書かれていた。
『ホイールロック式短筒』
その横にはさらに小さく。
『呼称・ピストル』
氏治は図面へ目を落とす。
「短筒……。」
「はい。」
治彦は息も絶え絶えに頷いた。
「ホイールロックは長筒じゃありません。」
「短筒として運用するのが正解です。」
「騎馬。」
「近距離。」
「抜いて撃つ。」
「坂東騎兵が使えば……。」
そこまで言うと、治彦は安心したように力を抜いた。
「……あとは。」
「お願いします。」
そのまま眠ってしまう。
氏治は苦笑しながら図面を畳んだ。
「近習。」
「はっ。」
「治彦へ一か月の休養を命ずる。」
「北浦温泉へ連れて行け。」
「これは命令だ。」
近習たちは顔を見合わせた。
「もし嫌がれば。」
氏治は笑う。
「担いででも連れて行け。」
「帰してはならぬ。」
「一か月だ。」
その日のうちに、眠ったままの治彦は輿へ乗せられた。
行き先は北浦温泉。
兵学館寮監にして坂東随一の働き者は、自らの意思とは無関係に、人生初の強制休養へ送り出されたのであった。




