坂東大評定ーー坂東五カ年計画
承知しました。以下、前話から自然につながる「坂東大評定」の冒頭です。
ライティング
坂東大評定 ――坂東五カ年計画
武田との決戦より一月余り。
季節はお盆を過ぎ、筑波山から吹く風にも秋の気配が混じり始めていた。
この日、筑波山神社には坂東中の諸将が集められていた。
大評定である。
例年より遅い開催となったのには理由があった。
氏治は武田晴信の墓所が完成するまで評定を待ったのである。
筑波山神社の境内には、武田晴信の墓が静かに西を向いて建てられていた。
その周囲には、見聞方が各地を巡り名を調べ上げた戦没者を祀る慰霊碑が並ぶ。
小田、武田、北条、上杉。
三国同盟による甲斐侵攻で命を落とした者たちを、敵味方の別なく弔うための碑であった。
さらに少し離れた高台には、小さな二つの社が建てられている。
那須。
館林。
氏治は二人を坂東を守った英雄として祀ることを決めたのである。
参列した大掾幹家は社の前で長く頭を下げ続けていた。
誰もその姿に声を掛けなかった。
参拝を終えると、一同は筑波山神社の拝殿へ集まる。
武田旧臣も列へ加わっていた。
馬場信春。
武田信繁。
そのほか新たに坂東へ迎えられた諸将も末席に座る。
氏治は蜈蚣切を静かに前へ置いた。
「始めよう。」
場が静まり返る。
氏治は諸将をゆっくり見渡した。
「皆、よく戦い、生きて戻った。」
「だが。」
「喪に服している時間は、坂東にはない。」
静かな声だった。
しかし、その言葉には強い決意が宿っていた。
「武田は滅びた。」
「しかし国は広がった。」
「広がった国を治めねば、それは勝利ではない。」
氏治は一枚の書付を広げる。
大きく記された題目は、
『坂東五カ年計画』
であった。
「ここより五年。」
「上野、下野の発展を最優先とする。」
諸将は姿勢を正す。
「第一。」
「自衛を除き、大きな戦は行わぬ。」
場に小さなどよめきが起こる。
氏治は続けた。
「戦で国は広がった。」
「ならば今度は民を豊かにする。」
「道を整え、田畑を広げ、港を築き、人を育てる。」
「それがこの五年の戦だ。」
諸将は静かに頷いた。
「第二。」
氏治は一本の坂東筒を持ち上げる。
「坂東筒の現在地を洗い出せ。」
「そして、更なる改良を始める。」
陳猛哲が身を乗り出した。
氏治は続ける。
「銃盾陣は強い。」
「しかし盾と共に戦う以上、どうしても足が遅くなる。」
「ならば射程で勝て。」
白虎寮の者たちが顔を上げる。
「筒を長くし、長筒とする。」
「射程を延ばし、敵より先に撃つ。」
「さらに長くなった筒は、そのまま槍としても扱えるよう工夫せよ。」
「銃口へ着脱できる刃を備え、白兵戦にも耐え得る武器とする。」
白虎寮では早くも筆が走り始めていた。
「また、兵の管理も改める。」
氏治は軍配で地図を示す。
「これまでの家ごとの兵ではなく、部隊として兵を管理する。」
「誰が率いても同じように戦える軍を作る。」
宇都宮が深く頷いた。
「ようやく本当の常備軍となりますな。」
「そのとおり。」
氏治は続ける。
「そして忘れてはならぬ。」
氏治は坂東筒へ視線を落とした。
「今回は運良く雨の戦がなかった。」
「だが鉄砲は本来、雨に弱い。」
陳猛哲も真壁も頷く。
「これを克服する。」
「方法は問わぬ。」
「火薬、撃鉄、構造、覆い。」
「思いつく限り案を出せ。」
陳猛哲は静かに笑った。
「面白くなって参りましたな。」
氏治も笑みを浮かべる。
そして最後に東北の地図を広げた。
「五年後の敵は蘆名とする。」
場が引き締まる。
「佐竹を匿う以上、いずれ戦になる。」
氏治は三本の線を引いた。
「水戸は浜通り。」
「宇都宮は中通り。」
「結城は尾瀬を越える山道。」
「それぞれ進軍路を想定し、今から街道と陣地を整えよ。」
誰も異を唱えなかった。
氏治は静かに蜈蚣切を握る。
「今日、この日をもって。」
「坂東五カ年計画を始める。」
その宣言に、居並ぶ諸将は一斉に頭を垂れた。
戦乱の坂東は終わった。
ここから始まるのは、国を築くための五年間であった。




