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砥石城、武田本隊迫る

七月も半ばを過ぎ、梅雨が明けると、越相常三国同盟は約定どおり一斉に兵を動かした。

北条は駿河より甲斐へ。

上杉は海津より北信濃へ。

そして小田氏治率いる坂東軍は館林へ集結した。

氏治はこの遠征を見越し、館林から西上野まで街道沿いに仮屋を整備していた。兵糧蔵、荷継ぎ場、鍛冶場を備え、兵は補給を受けながら碓氷峠を越えて東信濃へ進軍する。

目標は武田方の要、砥石城。

城を包囲した氏治は、まず白旗の使者を送り、開城を勧めた。

「三国同盟により後詰は来ぬ。」

「早々に開城するならば、城兵も領民も命は保証する。」

「坂東は約定を違えぬ。」

一日待ったが返答はない。

氏治は静かに軍配を下ろした。

「義は尽くした。」

「次は力を示そう。」

工兵隊は荷車から規格化された部材を降ろし、簡易組み立て式の中型投石機を組み上げる。

続いて二頭の象が異国製の臼砲二門を運び据え付けた。設置を終えると象は直ちに後方へ帰される。

「放て。」

轟音が山々を震わせた。

雷鳴のような臼砲の響きが城内を揺るがし、その間を埋めるように投石機が絶え間なく石弾を送り込む。

武田の後詰は望めない。

それを悟った砥石城は白旗を掲げ、開城した。

氏治は約定どおり城兵の命を保証した。

「なお武田のために戦いたい者は西へ。」

「戦を終えたい者は東へ。」

「余は降った者を追わぬ。」

武装を解いた兵たちは、それぞれ自ら選んだ道を歩んでいった。

氏治はただちに砥石城を前線拠点へ改める。

砥石城と周辺の支城へ兵を配し、収まりきらぬ那須衆と小山衆は山林へ伏兵として潜ませた。

館林では旧赤井家が兵站と連絡を担い、大掾幹家へ絶え間なく兵糧と火薬を送り続ける。

一方、宍戸政繁率いる工兵隊は昼夜を分かたず働き、三日に及ぶ突貫工事で街道と砥石城を結ぶ新たな付城を築き上げた。

土塁、空堀、木柵を巡らせた付城には、一度後方へ退いていた臼砲二門が再び据え付けられる。

砥石城と付城は互いを援護する一つの防衛線となり、武田本隊を迎える準備を整えた。

その頃、甲府では武田晴信が軍勢を率いて出陣していた。

途中、砥石城から退いた武田兵たちが本隊へ合流する。

「小田はまず開城を勧めました。」

「返答がないと、雷のような音を立てる異国の大筒を撃ち、休みなく投石機で石を送り込みました。」

「約定どおり命は助けられました。」

その報告を聞いた晴信は静かに頷くだけであった。

やがて武田本隊は砥石城へ到着する。

しかし、武田軍の前に現れたのは、記憶にある砥石城ではなかった。

街道を押さえる新たな付城。

土塁と木柵。

砥石城と連なる堅固な防衛線。

晴信はその光景を見つめ、短く命じる。

「攻め急ぐな。」

「まず敵を知る。」

武田軍は一旦野営し、砥石城と付城を正面に対峙した。

静寂の中、両軍は互いを見据える。

越相常三国同盟と武田本隊。

その雌雄を決する戦いは、夜明けとともに始まろうとしていた。

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