表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
161/1021

7月過ぎ、甲斐遠征

七月も半ばを過ぎ、梅雨が明けると、越相常三国同盟は約定どおり一斉に兵を動かした。

北条は駿河より甲斐へ。

上杉は海津より北信濃へ。

そして小田氏治率いる坂東軍は、館林へ集結した。

この遠征を見越し、氏治はすでに館林から西上野にかけて街道沿いへ仮屋を築かせていた。

兵糧蔵、荷継ぎ場、鍛冶場、馬替え所。

兵は仮屋を渡り歩くように進み、補給を受けながら西へ向かう。

館林では旧赤井家が兵站と連絡を預かり、坂東軍の命綱を支えていた。

やがて坂東軍は碓氷峠を越え、東信濃へ入る。

目指すは武田方の要、砥石城であった。

砥石城を包囲すると、氏治はまず白旗の使者を送り出した。

「三国同盟により、武田の後詰は来ぬ。」

「早々に開城するならば、城兵も領民も命は保証する。」

「武器を置く者は討たぬ。」

「坂東は約定を違えぬ。」

氏治は一日、静かに返答を待った。

しかし城門は閉ざされたままである。

氏治は軍配を握り、静かに命じた。

「義は尽くした。」

「次は力を示そう。」

工兵隊が荷車を開く。

規格化された木材が運び出され、簡易組み立て式の中型投石機が次々と完成していく。

その後方では、二頭の象が異国製の臼砲を一門ずつ曳いて前進し、砲座へ据え付けた。

設置を終えると、象は護衛を伴って直ちに後方へ帰される。

氏治は城を見据えた。

「狙うは人ではない。」

「城そのものだ。」

「坂東がなお戦を終わらせたいと思っていることを知らせよ。」

軍配が下ろされる。

轟音とともに二門の臼砲が火を噴いた。

雷鳴にも似た音が山々へ反響し、城全体を震わせる。

その轟音が消えぬうちに、中型投石機が休むことなく石弾を放ち始めた。

一発の威力ではなく、絶え間なく降り注ぐ石弾。

終わりの見えぬ攻城の始まりを、城兵たちは悟った。

北は上杉。

南は北条。

東は小田。

三方から攻められる今、武田の後詰は望めない。

やがて砥石城には白旗が掲げられた。

氏治は城内へ入り、約定どおり城兵を前へ集める。

「なお武田のために戦いたい者は、西へ行け。」

「甲斐には武田本隊がおる。」

「忠義を尽くすことを余は咎めぬ。」

氏治は今度は東を指差した。

「戦を終えたい者は東へ行け。」

「故郷へ帰るもよし。」

「坂東で暮らすもよし。」

「余は降った者を追わぬ。」

武器を置いた城兵たちは、それぞれ自ら選んだ道へ歩き始めた。

氏治は直ちに砥石城の整備を命じる。

その時、見聞方が馬を飛ばして駆け込んできた。

「急報!」

「武田信玄、本隊を甲府へ集結!」

評定の間が静まり返る。

氏治は静かに地図へ目を落とした。

「やはり来たか。」

「三国同盟を各個撃破するつもりだ。」

「最初の敵は我らであろう。」

氏治はすぐさま布陣を改めた。

砥石城へ主力を配し、周辺の支城にも兵を詰める。

なお余剰となる兵は、那須衆と小山衆を山林へ伏せ、伏兵とした。

さらに館林へ早馬を走らせる。

館林には旧赤井家が控えている。

「館林より大掾幹家へ急報せよ。」

「武田本隊が動いた。」

「兵糧と火薬を送り続けながら前進位置を定めよ。」

「兵站を絶やすな。」

その間、宍戸政繁率いる工兵隊は昼夜を問わず働き続けた。

三日に及ぶ突貫工事。

街道と砥石城を結ぶ位置へ、新たな付城が築かれていく。

土塁を築き、空堀を掘り、木柵を巡らせる。

砲座には一度後方へ退かせていた二門の臼砲が再び据え付けられた。

砥石城と付城は互いに援護し合い、一つの巨大な前線要塞として武田軍を迎え撃つ態勢を整える。

やがて西方の街道に土煙が立ち上った。

武田菱の旗が幾重にも翻る。

武田信玄自ら率いる本隊が、ついに砥石城前へ姿を現した。

こうして、三国同盟最初の本格的な大会戦。

武田本隊と坂東軍との決戦の火蓋が、静かに切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ