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はじめての贈り物

春も盛りを過ぎ、新緑が小田原の城下を包む頃、小田城へ北条家から一通の書状が届いた。

「娘が氏治殿に一度お目通りしたいと申しておる。よろしければ小田原へお越しいただきたい。」

北条氏康自らの書状であった。

氏治は快く承諾し、供には北浦を任された笠間幹永のみを連れて小田原へ向かった。

兄・真壁幹久は先の戦で負った傷がまだ癒えていなかったためである。

やがて氏治は小田原城へ案内される。

待っていたのは、同じく十二歳ほどの北条の姫であった。

姫は一国を率いる若き当主と聞かされ、不安を隠せずにいた。

厳しい人ではないだろうか。

戦ばかりを考える人ではないだろうか。

その緊張は、幼い胸にはあまりにも大きかった。

氏治は静かに一礼すると、一つの桐箱を差し出した。

「姫君へ。」

姫は恐る恐る蓋を開く。

そこには光を受けて美しく輝く坂東切子が納められていた。

「……なんて綺麗。」

思わず声が漏れる。

氏治は少し照れたように笑った。

「実は、何をお贈りすればよいか随分悩みました。」

「姫君のお好みも分かりませんでしたので……。」

「それならば、坂東で最も誇れる品をお持ちしようと思い、この切子を選びました。」

「お気に召していただければ、これほど嬉しいことはありません。」

姫は驚いて氏治を見つめた。

一国の当主でありながら、自分が喜ぶかどうかを気にかけ、飾らず素直に話している。

政略のための言葉ではなかった。

目の前の少年は、本当に自分のために悩み、選んでくれたのだ。

胸を締めつけていた不安が、少しずつほどけていく。

氏康はその様子を穏やかな表情で見守ると、姫へ小さな箱を手渡した。

「今度は北条からのお返しだ。」

姫は箱を受け取り、氏治の前へ進み出る。

「どうぞ、お受け取りください。」

中には北条家伝来の名工が鍛えた守り刀と、北条家の家紋をあしらった小さな守袋が納められていた。

「父が、『身を守るものとして持っていただきたい』と。」

氏治は両手で受け取り、深く頭を下げた。

「ありがたく頂戴いたします。」

氏康は二人を見比べ、小さく笑う。

まだ十二歳。

政略のために結ばれる二人ではあったが、その日の小田原には、戦国の駆け引きだけではない穏やかな空気が流れていた。

姫は胸に抱いた坂東切子を見つめながら思う。

――怖い方ではなかった。

――この方なら、お話ししてみたい。

その小さな安心こそが、北条と小田を結ぶ新たな縁の始まりとなったのである。

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