坂東水軍と兵学館の大改革
北への経済支援という大方針を示した氏治は、評定の中央へ海図と坂東筒を並べた。
「富を築くだけでは国は守れぬ。」
「富を運ぶ船と、それを守る兵もまた改める。」
家臣たちは静かに耳を傾けた。
氏治は海図を広げる。
「これまで坂東は南蛮船の技術を取り入れ、実用を優先して船を造ってきた。」
「しかし、これよりは違う。」
「南蛮の知識を学び、日本の海に最も適した船を坂東が造る。」
「坂東水軍は船の規格化を第一とする。」
「部材、帆、索具、火砲、補修法まで統一し、どの港でも修理できるようにせよ。」
氏治は二枚の図面を掲げた。
「坂東ガレオンは二荒山級と北浦級の二種とする。」
「二荒山級は交易と兵站を担う中型坂東ガレオン。」
「北浦級は軍艦として運用する小型坂東ガレオンである。」
家臣の一人が首を傾げた。
「小型とは申されますが。」
氏治は静かに笑う。
「マニラガレオンや明の福船と比べての話だ。」
「和船と比べれば、いずれもなお大型であり、十分な兵と物資を積み外洋を渡る力を持つ。」
「坂東が競うのは船の大きさではない。」
「商いも戦も、速さが第一だ。」
「一日早く荷を届ければ商いに勝つ。」
「一日早く兵を運べば戦に勝つ。」
「一刻早く報せが届けば国を救う。」
「ゆえに坂東ガレオンは船体をやや細身とし、帆走性能と回頭力を重んじる。」
氏治は北浦級の図面を指した。
「北浦級は坂東水軍の軍艦とする。」
「船首に主砲を備え、艦砲射撃に特化せよ。」
「港、河口、海辺の城へ接近し、錨を下ろして海上の砲台となる。」
「敵陣を砲撃し、味方の上陸を援護する。」
「また川船も坂東川船として規格を統一する。」
「館林、渡良瀬川、利根川、那珂川、そして将来は奥州南部まで、同じ船で物資を運べるようにせよ。」
鹿島政道と宍戸政繁は深く頭を下げた。
「はっ。」
氏治は続いて坂東筒を手に取る。
「次は鉄砲である。」
「まず諸国の鉄砲を集めよ。」
「国友、堺、根来、雑賀、北条、上杉、南蛮、明。」
「兵学館にて同一条件で撃ち比べる。」
「有効射程。」
「命中率。」
「装填速度。」
「故障率。」
「雨天での運用。」
「坂東筒の現在地を知り、その上で改良を進めよ。」
陳猛哲は一礼した。
「必ずや長所も短所も明らかにいたします。」
氏治は頷いた。
「また、此度は天候に恵まれた。」
「これよりは雨天を前提として鉄砲を改良せよ。」
「火縄、火皿、火薬入れ、革袋、盾。」
「すべてを見直し、小雨でも戦える鉄砲隊を目指す。」
「方法は問わぬ。」
「兵学館の知恵を尽くし、戦場で使える形にせよ。」
さらに氏治は兵学館の教官たちを見渡した。
「精鋭選抜狙撃隊を新設する。」
「敵兵を多く討つ隊ではない。」
「敵将、旗持ち、伝令、鉄砲大将など、敵軍を動かす者を討つ隊である。」
「まずは腕利きの鉄砲足軽を選抜し、既存の坂東筒で訓練を始めよ。」
「潜伏、伏せ撃ち、観測、離脱を徹底して叩き込む。」
氏治は陳猛哲へ向き直る。
「陳。」
「長筒の設計は其方に一任する。」
「命中精度と有効射程を重んじた狙撃専用の長筒を完成させよ。」
「さらにホイールロック式銃の実戦配備も急げ。」
「雨、泥、衝撃に耐え、戦場で使える武器とするのだ。」
陳は深く一礼した。
「兵学館の職人と学生を総動員し、必ずや完成させます。」
氏治は最後に坂東筒を掲げる。
「また、撃ち終えた鉄砲が棒となってはならぬ。」
「坂東筒に着脱できる銃剣を考案せよ。」
「撃ち終えれば、そのまま槍として戦える武器とする。」
そして評定を締めくくるように家臣たちを見渡した。
「研究が進めば、いずれ鉄砲、盾、工兵を中核とした新たな歩兵を編成したい。」
「その日はまだ先だ。」
「されど坂東は、勝ったから歩みを止めることはない。」
「常に学び、常に改め、常に半歩先を行く。」
その言葉に家臣一同は深く頭を垂れ、兵学館と坂東水軍は新たな時代へ向けて動き始めるのであった。




