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銃盾隊

舟橋を渡る音だけが、夜の那珂川に静かに響いていた。

一歩。

また一歩。

銃盾隊は決して走らない。

敵陣が燃え、怒号が飛び交う中でも、その歩みは変わらなかった。

前列では牛革で覆われた大盾が隙間なく連結され、一枚の城壁のように夜闇を進む。

その後ろには鉄砲隊。

さらに後方には予備の鉄砲隊と弾薬係。

すべて兵学館で繰り返し訓練された陣形である。

真壁幹久は最前列に立ち、ゆっくりと槍を前へ向けた。

「止まるな。」

その一言だけだった。

「止まれば、敵は勢いづく。」

「進めば、敵は恐れる。」

兵たちは黙って頷く。

坂東で幾度となく繰り返した演習。

今日初めて、それが実戦となる。

やがて敵の見張りが銃盾隊を見つけた。

「正面!」

「城から敵だ!」

「迎え撃て!」

佐竹軍の鉄砲隊が慌ただしく整列する。

火縄が灯される。

「撃て!」

轟音。

何十発もの鉛玉が夜を裂く。

しかし――。

鈍い音が連続して響く。

牛革を幾重にも張り合わせた大盾が弾丸を受け止め、火花を散らす。

貫かれない。

崩れない。

兵は倒れない。

佐竹兵が目を見開いた。

「盾が……破れぬ!」

その瞬間。

幹久が右手を上げる。

「第一列。」

盾の隙間が一斉に開いた。

後方の鉄砲隊が銃口を突き出す。

「撃て。」

夜空を震わせる一斉射撃。

前列の佐竹兵が次々と倒れる。

撃ち終えた兵はすぐ後ろへ退く。

第二列が前へ。

「撃て。」

また轟音。

さらに第三列。

止まらない。

まるで絶え間なく雷が落ち続けるようだった。

「前へ。」

幹久は再び命じる。

盾の壁は撃ちながら歩く。

一歩。

撃つ。

一歩。

また撃つ。

敵は押され始めた。

「押し返せ!」

佐竹の侍大将が叫ぶ。

槍足軽が突撃を開始する。

数では佐竹軍が圧倒していた。

槍衾が盾へぶつかる。

しかし笠間幹永が笑った。

「兄上。」

「ようやく近づいてくれましたな。」

「撃て。」

今度は至近距離。

盾越しに放たれた鉄砲は槍衾を一瞬で切り裂いた。

倒れた兵を越え、後続が押し寄せる。

それでも銃盾隊は崩れない。

盾が押し返し、

鉄砲が撃ち、

また前へ出る。

戦場にいた南東北の武将が息を呑んだ。

「何だ……あの兵は。」

「城壁が歩いているようだ……。」

その頃、後方では鹿島衆の焼き討ちがさらに激しくなっていた。

兵糧庫だけではない。

荷駄。

馬屋。

矢倉。

炎は風に乗って広がり、本陣のすぐ近くまで迫る。

「火を消せ!」

「いや、正面だ!」

「海だ!」

命令が飛び交う。

どこへ兵を向ければよいのか。

誰にも判断できなかった。

その混乱を城壁の上から見つめていた氏治は、静かに口を開く。

「宍戸。」

「はっ。」

「次だ。」

宍戸政繁は投石機の工兵たちへ歩み寄る。

その足元には、これまでの焙烙玉とは違う陶器が積まれていた。

工兵が導火線を確かめる。

「殿。」

「準備、整いました。」

氏治は戦場を見つめた。

銃盾隊はなお前進を続けている。

鹿島衆は敵後方で暴れ続けている。

敵の混乱は頂点へ達しようとしていた。

氏治はゆっくりと軍配を掲げる。

「照らせ。」

その一言に、宍戸は大きく頷いた。

「照明焙烙玉、装填!」

巨大な投石機へ、新たな陶器玉が吊り上げられる。

戦場の誰も、その意味をまだ知らない。

そして西の闇では、一団の騎馬武者が静かに槍を構えていた。

その先頭に立つのは――

宇都宮尚綱。

青鬼は、まだ動かない。

ただ、氏治の合図だけを待っていた。

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