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玄武寮設立の理由

夕餉も終わり、朱雀寮の大食堂には穏やかな時間が流れていた。

笑い声も少しずつ落ち着き、氏治は結城朝基へ視線を向ける。

「朝基。」

「最後に一つだけ聞きたい。」

「なぜ玄武寮を作った。」

朝基は少し考え、照れくさそうに笑った。

「兄上のせいです。」

「朝綱か。」

「はい。」

朝基は静かに頷いた。

「私は昔から変わった子でした。」

「興味を持つと周りが見えなくなる。」

「話が飛ぶ。」

「一人で勝手に何かを始める。」

「問題児でした。」

玄武寮生たちも苦笑する。

「でも兄上だけは違いました。」

「叱る前に話を聞いてくれた。」

「『どこまで分かっている。』」

「『紙へ書いてみよう。』」

「そうやって私の頭を整理してくれました。」

朝基は兄へ目を向ける。

「だから思ったんです。」

「私も兄上のようになりたい、と。」

少し間を置いて続けた。

「兵学館にも、昔の私のような子がいました。」

「変わっていると言われる者。」

「周りと話が合わない者。」

「何か一つだけ異常に夢中になる者。」

「でも私は知っています。」

「そういう子ほど、一芸に秀でていることがある。」

「そしてそれは、寂しさや居場所を求める心の表れでもあります。」

朝基は玄武寮生たちを見回した。

「だから兄上が私へしてくれたように。」

「今度は私が、そういう子へ手を差し伸べたい。」

「それが玄武寮を作った理由です。」

氏治は静かに頷き、今度は赤井義勝へ目を向けた。

「義勝は。」

赤井は少し笑った。

「私は朝基に拾われたようなものです。」

「昔から人より考えるのが少し速くて。」

「相手の話を最後まで聞く前に答えが浮かんでしまう。」

「だから『気味が悪い』『話しづらい』と言われることが多くありました。」

「ところが朝基だけは違いました。」

朝基は笑う。

「義勝は私の話を最後まで聞いてくれるんです。」

赤井も笑い返した。

「聞かないと分からないんです。」

「朝基の発想は、私にも読めない。」

「考え方が違う。」

「でも筋は通っている。」

「だから面白い。」

氏治は二人を見比べる。

朝基は発想の天才。

赤井は思考の速さの天才。

同じ天才ではない。

種類の違う天才だった。

だからこそ、お互いの考えを面白いと思えた。

朝基は静かに言った。

「玄武には、変わり者しか集まりません。」

「でも、一人一人を見ると変わっていても、皆で集まると不思議と足りないところを埋め合える。」

「まるで、形の違うパズルのピースみたいなんです。」

赤井も続ける。

「玄武へ来る者の多くは、一度どこかで居場所を失っています。」

「だから、人を追い出しません。」

「誰かを笑いません。」

「一度弾かれた者だからこそ、次は自分が誰かの居場所になろうと思える。」

朝基は穏やかに微笑んだ。

「玄武の結束は、才能ではありません。」

「同じ痛みを知っていること。」

「そして、お互いを認め合っていることです。」

氏治はゆっくりと立ち上がる。

「なるほど。」

「玄武は変わり者の寮ではない。」

「変わり者が安心して帰って来られる家なのだな。」

朝基と赤井は顔を見合わせ、静かに笑った。

その笑顔だけで、玄武寮とはどんな場所なのかを物語っていた。

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