夕刻の源平戦
夕刻の馬庭球場に、開始の合図が響いた。
「始め!」
両軍の馬が一斉に駆け出す。
土煙が舞い、鞠が高く宙へ放られた。
真っ先に飛び出したのは白虎寮長・小山義広。
だが、その前へ一年生が果敢に飛び込む。
小山は無理に奪わず、軽く槍を合わせるだけで受け流した。
「いい踏み込みだ!」
「そのまま前へ!」
一年生は思わず笑顔になり、そのまま味方へ鞠を送る。
試合は予想以上に激しく、それでいて和やかだった。
各寮長も副寮長も本気で走る。
だが、本気で勝ちに来ているわけではない。
一年生へ鞠を預ける。
苦しそうなら助ける。
成功すれば皆で拍手を送る。
その中でも、玄武寮長・結城朝基だけはいつもと様子が違った。
普段なら試合全体を見渡し、細かく指揮を執る朝基が、この日は一切指揮をしない。
代わりに一年生のすぐ近くを走る。
「大丈夫。」
「行ってください。」
「私がいます。」
一年生が迷えば、自分が相手を引きつける。
一年生へ鞠が渡れば、自分は囮となって道を空ける。
「今です!」
その声に一年生が思い切って飛び込み、そのまま見事な得点を決めた。
「やった!」
朝基は誰よりも嬉しそうに拍手を送る。
「お見事!」
「今の主役は君ですよ!」
その姿を見て、一年生たちの表情から緊張は消えていった。
一方――
反対側では宇都宮朝綱が静かに試合を支えていた。
敵味方の力が偏れば、自ら守備へ回る。
一年生が孤立すれば、自然に近くへ寄る。
「慌てなくていい。」
「一度落ち着こう。」
「味方を見て。」
誰かが目立ちすぎることもなく、誰かが取り残されることもない。
朝綱は試合そのものが気持ちよく流れるよう、絶えず均衡を整えていた。
氏治は二人を見比べ、思わず微笑んだ。
「兄弟だな。」
治彦も頷く。
「ええ。」
「兄上は場を整える。」
「朝基は人を輝かせる。」
朝綱は誰も困らない試合をつくる。
朝基は誰もが活躍できる試合をつくる。
やり方は違う。
しかし、その根底には「皆で学び、皆で楽しむ」という同じ願いが流れていた。
夕暮れの馬庭球場には、勝敗を忘れた笑い声がいつまでも響き続けていた。




