夕刻の馬庭球と四寮長
夕刻になり、ようやく暑さも和らいできた。
それでも八月の土浦はまだ日が高く、馬庭球場は明るいままだった。
調査を終えた玄武寮生たちは、そのまま馬庭球場へ集まる。
朝基は周囲を見回し、笑顔で言った。
「せっかくです。」
「今日は新二年生と、一年生の希望者で試合をしましょう。」
一年生たちは互いに顔を見合わせた。
前回の玄武寮の試合を見ている。
少人数とは思えない連携。
冷静な判断。
どこから攻めてくるか分からない動き。
玄武と試合をするという意味を、誰もが知っていた。
「……やります。」
最初に前へ出たのは、腕に覚えのある一年生だった。
続いてもう一人。
さらに一人。
だが、それ以上はなかなか増えない。
朝基は困ったように笑う。
「では、見学している方で参加したい人はいませんか。」
「寮は問いません。」
「ぜひ一緒にやりましょう。」
馬庭球場は静まり返った。
誰も動かない。
朝基は首をかしげる。
「……いませんか?」
観客席では小声が飛び交う。
「玄武だぞ。」
「前回を見たろ。」
「勝てる気がしない。」
「何をしてくるか分からない。」
その空気を見て、氏治は思わず苦笑した。
「朝基。」
「お前は分かっておらぬようだが。」
「皆、お前たちに気圧されておる。」
玄武寮生たちは互いに顔を見合わせる。
「そうなんですか?」
本気で不思議そうな表情だった。
その様子に、観客席から思わず笑いが漏れる。
すると、一人の青年が静かに前へ歩み出た。
「仕方ありません。」
白虎寮長・小山義広だった。
「誰も出ないなら、私が参加します。」
続いて青龍寮長・大掾幹康が笑う。
「青龍も付き合おう。」
朱雀寮長・宇都宮朝綱も静かに頷く。
「交流も兵学館の学びだからな。」
さらに三人の後ろから、それぞれの副寮長も歩み出る。
「白虎副寮長・那須資忠。」
「青龍副寮長・鹿島道征。」
「朱雀副寮長・佐野氏照。」
「寮長だけに任せるわけにはいきません。」
八人が馬庭球場へ並ぶと、周囲から大きなどよめきが起こった。
「四寮長だ!」
「副寮長まで!」
「これは練習試合じゃないぞ!」
氏治は満足そうに笑った。
「これでようやく場が締まったな。」
朝基も嬉しそうに一礼する。
「ありがとうございます。」
「それでは、兵学館を代表する皆さんと、一緒に楽しみましょう。」
夕刻の馬庭球場は、兵学館中の視線を集めながら、特別な一戦の始まりを迎えようとしていた。




