玄武寮、研究の流儀
ある程度発掘が進むと、一人の玄武寮生が大きな声を上げた。
「待ってください!」
「何かあります!」
皆が一斉に駆け寄る。
慎重に土を払い、木べらで少しずつ掘り進めていく。
やがて土の中から現れたのは、黒く変色した大きな木材だった。
「……丸木舟だ。」
治彦が思わず呟く。
長い年月を土の中で過ごしたため、半ば朽ち、半ば土と一体になっている。
それでも船底の丸みははっきりと残っていた。
氏治も思わず息を呑む。
「昔の船か。」
しかし、玄武寮生たちは歓声を上げるどころか、その場へしゃがみ込み始めた。
「いや、まだ早い。」
「これだけでは何も分からない。」
「湖で使った丸木舟かもしれない。」
「海とは限らない。」
氏治は少し驚く。
「見つけても、すぐには結論を出さぬのか。」
一人の玄武寮生が頷く。
「仮説は証拠ではありません。」
「丸木舟だけでは、淡水か海水か判断できません。」
別の生徒が袋から貝殻を取り出した。
「ですが、この貝の食性を考えれば……。」
「海に棲む種類です。」
「限りなく海だった可能性が高いと思います。」
すると、すぐ隣の生徒が首を振る。
「『可能性が高い』と『証明された』は違う。」
「まだ断定はできない。」
議論が始まった、その時だった。
「こっちも見てください!」
別の場所を掘っていた生徒が叫ぶ。
皆が駆け寄る。
土の中から割れた土器の破片が現れる。
内側には黒く焦げ付いたような跡が残っていた。
「……これは。」
「藻塩を煮詰めた跡ではないか?」
その一言に、さすがの玄武寮生たちも少しざわつく。
「海水を煮た土器かもしれない。」
「もしそうなら、この辺りが海だった証拠になる。」
場が少し盛り上がる。
しかし、その熱もすぐに別の声で抑えられた。
「待て。」
「鹿島から海水を汲んで運んできた可能性は?」
「交易や保存のためなら、海水を運ぶこともできる。」
「その壺が、この場所で使われたとは限らない。」
すると別の生徒も頷く。
「確かに。」
「出土しただけでは証拠にならない。」
「年代も調べる必要がある。」
「周囲から何が出るかも見なければ。」
せっかく盛り上がった空気は、再び静かな議論へ戻っていく。
氏治はその様子を見つめ、思わず笑った。
「面白い。」
「証拠が出ても、すぐには飛びつかぬのだな。」
治彦も苦笑する。
「誰かが仮説を立てれば、必ず誰かが反論する。」
「玄武寮は、皆が互いに疑っているようで、実は皆で答えを磨いているんですね。」
土まみれになった玄武寮生たちは、再び地面へ向き直る。
一つの発見に喜びながらも、一つの反論を忘れない。
それが、玄武寮の研究の流儀なのであった。




