表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
124/1005

玄武寮の寮行事

白虎寮を後にした氏治たちは、その足で玄武寮を探し始めた。

「玄武寮の者を見なかったか。」

兵学館の生徒へ尋ねる。

「今日は見ていません。」

「朝はいましたけど……。」

別の生徒も同じように首を振る。

「玄武寮なら今日は誰もいません。」

「寮行事です。」

「全員で出掛けました。」

「全員か。」

氏治は思わず苦笑した。

「これでは兵学館を探しても見つからぬな。」

大掾政景も肩をすくめる。

「根本的に留守ですね。」

治彦は周囲を見回した。

「どこへ行ったか分かりますか。」

一人の上級生が思い出したように答える。

「霞ヶ浦の方です。」

「馬へ築城道具を積んで出掛けました。」

「築城道具?」

氏治が眉を上げる。

「はい。」

「縄や杭、測量道具なんかを積んでいました。」

「何か調査だと思います。」

「よし。」

「追ってみよう。」

氏治たちは馬へ乗り、霞ヶ浦方面へ向かった。

土浦城から南へしばらく走る。

湖を望む緩やかな丘へ差しかかると、人だかりが見えた。

「あれか。」

丘には二十人を超える玄武寮生が集まっていた。

しかし様子がおかしい。

築城をしているようには見えない。

縄を張る者。

地形を測る者。

板へ図を書き込む者。

そして、多くの生徒は夢中になって地面を掘っていた。

「……何をしているのだ。」

氏治が馬を降りると、一人の玄武寮生が土だらけの顔で振り返った。

「あ、殿。」

「ようこそ。」

「ちょうど良いところへ。」

氏治は掘り返された地面を見つめる。

「築城ではないのか。」

玄武寮生は首を横へ振った。

「違います。」

「遺跡調査です。」

「遺跡?」

「はい。」

「この辺りでは海の貝殻がよく見つかるんです。」

生徒は拾い上げた貝殻を見せる。

「だから私たちは考えました。」

「昔は土浦一帯まで海だったのではないか、と。」

別の生徒が続ける。

「縄文時代の丸木舟。」

「藻塩を作った跡。」

「昔の暮らしが分かる物が残っていないか調べています。」

大掾政景は感心したように笑った。

「それで築城道具を。」

「はい。」

玄武寮生は嬉しそうに頷く。

「縄や杭は遺跡の位置を測るため。」

「板は地図を書くためです。」

「掘るだけでは研究になりませんから。」

治彦は思わず笑った。

「なるほど。」

「築城道具じゃなくて、測量道具だったんですね。」

玄武寮生も笑う。

「一人が『土浦は昔、海だったんじゃないか』と言い出したんです。」

「それなら皆で調べよう。」

「今日の寮行事は、そのための調査です。」

氏治は丘いっぱいに広がる玄武寮生たちを見回した。

戦の訓練でもない。

武術でもない。

ただ一つの疑問を皆で追いかけるためだけに、寮全員が霞ヶ浦までやって来ていた。

氏治は思わず笑みを浮かべる。

「実に玄武らしい寮行事だ。」

その言葉に、土まみれの玄武寮生たちは照れくさそうに笑い合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ