白虎の献上ー歯車仕掛けの銃ー
「殿、お待ちください。」
氏治が工房を後にしようとした時、小山義広が声を掛けた。
「玄武寮へ向かわれる前に、一つだけ、ご覧いただきたいものがあります。」
そう言うと、小山は工房の奥へ姿を消した。
しばらくして戻ってきた彼の両手には、一挺の鉄砲が大切そうに抱えられていた。
氏治は思わず足を止める。
「……見慣れぬ筒だな。」
一見すると坂東筒である。
しかし、火皿の周囲には複雑な金具が組み込まれ、側面には時計を思わせる歯車が覗いていた。
小山は机へ鉄砲を置くと、小さな鍵を取り出す。
「これは時計の仕組みを応用した撃発装置です。」
鍵を側面へ差し込み、ゆっくりと回す。
カチ、カチ、カチ……
細かな歯車が静かな音を立てながら巻き上がっていく。
「引き金を引くと、この歯車が勢いよく回転し、火打石を擦って火花を飛ばします。」
「つまり、火縄を使いません。」
治彦は思わず身を乗り出した。
「ホイールロック式……。」
氏治も感心したように鉄砲を見つめる。
「火縄が不要なら、雨でも撃てるのか。」
「はい。」
小山は頷いた。
「軽い雨程度でしたら問題なく撃てます。」
「火縄の火が消える心配もありません。」
「ですが。」
そう言って、小山は銃身の側板を外した。
中には幾重にも噛み合う、小さな歯車が並んでいる。
「欠点もあります。」
「構造が細密すぎます。」
「砂が入れば動きが悪くなります。」
「泥や汚れにも弱い。」
「さらに、落としたり強くぶつけたりすると歯車が狂う恐れがあります。」
大掾政景は腕を組んだ。
「戦場では扱いが難しいな。」
「そのとおりです。」
小山は苦笑する。
「火縄銃より便利な面はありますが、丈夫さではまだ敵いません。」
「改良の余地は多くあります。」
そう言うと、小山は丁寧に鉄砲を組み直し、両手で氏治へ差し出した。
「殿。」
「これは原板です。」
「これから改良を重ねていくための最初の一挺。」
「どうか、お納めください。」
氏治は静かに受け取った。
ずしりとした重みとともに、歯車の精巧さが手へ伝わってくる。
「見事だ。」
「まだ完成ではない。」
「だが、新しい時代を感じさせる銃だ。」
小山は深く一礼した。
「ありがとうございます。」
「白虎は、これからも改良を続けます。」
氏治は歯車仕掛けの銃を見つめながら、小さく笑う。
「盾の答えは見つからなかった。」
「だが、それ以上の土産をもらったようだ。」
工房には、静かな笑い声が広がる。
こうして氏治は、白虎寮から一挺の未来を託され、次なる答えを求めて玄武寮へ向かうのであった。




