白虎の答え
夕餉も終わり、談話室には穏やかな空気が流れていた。
氏治は湯飲みを置くと、小山義広へ向き直った。
「そういえば、もう一つ聞きたいことがあった。」
「評定へ提出された、あの盾の答書についてだ。」
「無記名で提出されたあの答書を書いたのは、お前たちではないのか。」
小山は一瞬だけ考えたが、やがて苦笑した。
「殿。」
「今日は考えない日です。」
「工房の話を始めてしまえば、皆また考え始めてしまいます。」
談話室から笑いが漏れる。
那須資忠も肩をすくめた。
「寮長の決めたことですから。」
「今日は仕事の話は禁止です。」
氏治も思わず笑った。
「それもそうだな。」
「では、この話は明日にしよう。」
「はい。」
その夜は盾の話には触れず、穏やかな語らいのまま更けていった。
翌朝。
氏治は工房を訪ねる。
中では朝早くから生徒たちが動き回っていた。
新しい盾の設計図を囲んで議論する者。
革を張る者。
完成した盾を持ち、重さや構えを確かめる者。
その中央では、小山義広が出来上がった盾を構え、重心を確かめていた。
氏治は小山へ歩み寄る。
「昨日の続きを聞こう。」
「あの無記名の盾の答書を書いたのは、お前たちではないのか。」
小山は静かに首を横へ振った。
「いいえ。」
「我々ではありません。」
「盾は作っています。」
「教官から依頼されれば試作もしますし、改良も重ねています。」
「ですが、あの答書を書いた覚えはありません。」
氏治は腕を組む。
「では、誰だと思う。」
小山は少し考え込んだ。
「白虎なら、私も含め必ず名を書きます。」
「意見には責任がありますから。」
「模範寮である朱雀も、おそらく同じでしょう。」
「無記名で提出するとは考えにくい。」
しばらく沈黙した後、小山はゆっくりと言った。
「もし無記名で答書を出すとしたら……。」
「青龍か。」
「あるいは玄武ではないでしょうか。」
氏治は静かに頷いた。
「なるほど。」
「では、次は玄武を訪ねてみるとしよう。」
そう言うと氏治は工房を後にした。
白虎にも分からない。
ならば答えは、まだ別の場所にあるのかもしれなかった。




