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白虎寮が生まれた理由

談話室には静かな空気が流れていた。

氏治の問いを受け、小山義広はしばらく考え込むように湯飲みを見つめていた。

やがて静かに顔を上げる。

「殿。」

「白虎寮を作った理由は、私の生い立ちにあります。」

氏治は黙って頷いた。

「小山家は北条と上杉、その狭間にある家でした。」

「どちらへ味方しても敵を作り、いつ滅びてもおかしくありません。」

「幼い頃から、家というものは決して永遠ではないと教えられて育ちました。」

談話室は水を打ったように静まる。

「だから私は思ったのです。」

「家が滅んでも生きていける人間になろう、と。」

「武人としてでも。」

「職人としてでも。」

「学者としてでも。」

「腕っ節一つ、技一つ、才能一つで生きていけるようになろうと。」

氏治は静かに呟く。

「それで武術も学問も、からくりも学んだのか。」

「はい。」

小山は穏やかに答えた。

「ですが……。」

少しだけ笑みを浮かべる。

「途中で、それは間違いだと気付きました。」

「ほう。」

氏治が身を乗り出す。

「石は、一つでは磨けません。」

小山は近くに置かれていた砥石を手に取った。

「石を磨くには、もう一つ石が必要です。」

「人も同じでした。」

「武術を磨くにも相手がいる。」

「学問を磨くにも語り合う仲間がいる。」

「職人も、一人では良い品は作れません。」

「私は、一人で生きていける人間になろうとしていました。」

「ですが、本当に強くなるには、一人では足りなかったのです。」

小山はゆっくり立ち上がる。

そして白虎寮生たちへ向き直った。

「だから白虎寮を作りました。」

「武人も。」

「職人も。」

「学者も。」

「皆が互いを磨き合える場所として。」

「皆には、互いが石のような存在になってほしい。」

「削り合う石ではありません。」

「磨き合う石です。」

そう言って、小山は深く頭を下げた。

「今まで、本当にありがとう。」

「そして、これからも共に学び、共に励み、共に強くなってください。」

談話室は静まり返った。

寮生たちは皆、目を見開いて小山を見つめている。

誰もが、小山義広は自分たちより遥か先を歩く存在だと思っていた。

その小山が、自分たちを「仲間」と呼び、頭まで下げた。

最初に動いたのは那須資忠だった。

立ち上がると、小山の隣へ歩いていく。

「寮長。」

「違います。」

「私たちの方こそ、ありがとうございます。」

「ここまで来られたのは、寮長がいたからです。」

その言葉をきっかけに、一人、また一人と立ち上がる。

「俺もです。」

「自分も。」

「これからも一緒にお願いします。」

気が付けば、白虎寮生全員が小山の周りへ集まっていた。

誰かが肩へ手を置き、誰かが笑い、誰かが涙を拭っている。

小山は少し照れくさそうに笑った。

「やれやれ。」

「これでは、私が泣かされてしまうな。」

談話室に笑いが広がる。

氏治はその光景を見つめながら、静かに頷いた。

「なるほど。」

「これが白虎寮か。」

「武術で結ばれたのではない。」

「互いを磨き合う仲間だからこそ、ここまで強くなれたのだな。」

その夜、白虎寮は武術だけではない、心の絆でもまた一つになったのであった。

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