考えない日と馬庭球
武術愛好会を終えた白虎寮生たちは、大きな露天風呂で汗を流し、そのまま全員で夕食を囲んだ。
稽古では互いを投げ合い、真剣勝負を繰り広げた者たちも、今では笑いながら同じ釜の飯を食べている。
食事が終わると、小山義広は立ち上がった。
「今日の午後は、一日『考えない日』とする。」
食堂が静かになる。
「勉強は構わない。」
「読書も、算術も、読み書きも自由だ。」
「人によっては、それが息抜きになる。」
「だが、工房への立ち入りは禁止する。」
一年生が首を傾げた。
「寮長、工房だけですか。」
「そうだ。」
小山は穏やかに答える。
「工房へ入れば、何かを作りたくなる。」
「改良したくなる。」
「試したくなる。」
「それでは頭が休まらない。」
「だから今日は、ものづくりは忘れろ。」
「各自、自分の好きなように過ごしていい。」
「以上、解散。」
「はい!」
白虎寮生たちは笑顔で食堂を飛び出していく。
ある者は図書室へ。
ある者は昼寝をしようと寮へ。
そして、多くの者は自然と馬庭球場へ向かって走り出した。
氏治はその様子を見て、不思議そうに笑った。
「面白いな。」
「誰も命じておらぬのに、皆馬庭球へ向かっていく。」
大掾政景も頷く。
「私も最初は不思議でした。」
「ですが、理由があるのです。」
小山が微笑んだ。
「白虎では、一週間に二日ほど『考えない日』を設けています。」
「その日は工房を閉めます。」
「だから、身体を動かして遊ぶ習慣が自然と身につくのです。」
治彦は感心したように呟く。
「なるほど……。」
「馬庭球の練習時間が長い理由は、それだったんですね。」
「ええ。」
小山は頷いた。
「頭を休ませるには、身体を動かすのが一番です。」
「馬庭球なら夢中になれます。」
「勝っても負けても笑える。」
「仲間とも自然に集まる。」
「だから白虎では、考えない日は馬庭球へ行く者が多いのです。」
氏治は満足そうに笑う。
「休みの日まで鍛錬になっているとは思わなかった。」
小山は首を横に振る。
「鍛錬ではありません。」
「習慣です。」
「良い習慣は、命令されなくても続きます。」
夕暮れの兵学館では、武術愛好会を終えた白虎寮生たちが笑いながら馬へまたがり、馬庭球場へ駆け出していく。
その光景を見ながら氏治は、白虎寮の強さは技だけではなく、日々の暮らしの積み重ねから生まれているのだと、静かに実感するのであった。




