青龍、それぞれの休日
翌朝、筑波と宝篋は朝靄の霞ヶ浦を抜け、土浦へ到着した。
龍宮館の桟橋へ着くと、青龍寮生たちは手際よく船倉を開き、大量の牛革を荷揚げしていく。
「急げ!」
「革はこっちだ!」
ところが、龍宮館の蔵へ運び込もうとした途端、待ち構えていた商人や工房の職人たちが一斉に集まってきた。
「盾用の革を頼む!」
「馬具用も分けてくれ!」
「うちは鎧師だ、こちらへ!」
氏治の特例により、土浦では坂東楯の生産が本格的に始まっている。
そのため牛革はいくらあっても足りず、荷は蔵へ積まれる間もなく次々と買い付けられていった。
荷車へ積み替えられ、そのまま工房へ。
帳簿へ印が付けられ、代金が支払われる。
最後の一束を降ろし終えた頃には、船倉は空になり、蔵もほとんど満たされることなく荷はすべて行き先が決まっていた。
大掾政景は帳簿を閉じる。
「これで今回の商いは終わりです。」
利益が計算されると、青龍寮生たちは甲板へ集められた。
大掾は一人ひとりへ銭を手渡していく。
「皆で働いた利益だ。」
「皆で分ける。」
銭を受け取った寮生たちの顔がほころぶ。
「そして約束どおり、一週間の自由時間とする。」
「一週間後、龍宮館へ集合。」
「遅れるなよ。」
「はい!」
号令が終わると、青龍寮生たちは思い思いに散っていった。
「俺は馬庭球の練習へ!」
新しい馬具を抱えて演習場へ向かう者。
「私は龍宮館で勉強します。」
帳簿や漢籍を抱え、静かな部屋で読み書きや算術に励む者。
「市場へ行ってきます。」
自由時間にもかかわらず、市場で店を手伝ったり、荷運びの仕事を引き受けたりする者。
休日の過ごし方まで、それぞれが自分で決めていた。
氏治はその様子を見て笑う。
「休みなのに働く者までいるのか。」
治彦も苦笑した。
「青龍らしいですね。」
その時、一人の兵学館生が息を切らして龍宮館へ駆け込んできた。
「大変です!」
「兵学館で決闘が始まるそうです!」
その一言で、その場の空気が変わる。
「決闘だと?」
氏治が眉をひそめる。
しかし、大掾政景だけは肩を揺らして笑っていた。
「たぶん、武術愛好会でしょう。」
「毎度のことです。」
「試合になると本人たちは『決闘だ』『勝負だ』と騒ぐものですから。」
治彦も思わず笑う。
「紛らわしいですね。」
「ですが、見物人も多く集まりますよ。」
大掾がそう言うと、氏治は頷いた。
「ならば行こう。」
「兵学館の若者たちが、どのような武を競っているのか見てみたい。」
氏治、治彦、大掾、そして興味を持った青龍寮生たちは、賑わう土浦の町を抜け、兵学館へと足を向けるのだった。




