龍宮館の語らい
青龍の一撃が終わると、四寮の寮生たちは歓声と拍手の中で互いを称え合い、そのまま青龍商館――龍宮館へと足を向けた。
龍宮館は青龍が営む商館であり、四寮共通の待ち合わせや評定、試合後の語らいの場でもある。
一階では商人や店番が忙しく動き回り、異国の品や兵学館の文具が並ぶ。二階の広間には茶と菓子が運ばれ、先ほどまで激しく競い合っていた青龍、白虎、朱雀、玄武の寮生たちが肩を並べていた。
勝敗を引きずる者は一人もいない。
話題はすでに次の試合や新しい工夫へと移っていた。
やがて、大掾が湯呑を置き、氏治へ向かって頭を下げる。
「殿。次はぜひ青龍寮へお越しください。」
その一言に、小山が吹き出した。
「おいおい、それは抜け駆けだろう。」
結城朝基も笑って続ける。
「青龍だけ先というのは不公平ですよ。」
玄武寮長も静かに口を開いた。
「玄武にも、ぜひ。見せたいものが山ほどございます。」
その横で、朱雀寮長はのんびりと茶をすすりながら笑った。
「朱雀は最初に殿を迎えたからな。」
「祭りも宴も、十分楽しんでいただいた。」
「今回は他の寮へ譲ろう。」
朱雀寮生たちも笑顔で頷く。
「最初は朱雀でしたからね。」
「今度は皆さんの番です。」
氏治は四人の寮長を見回し、穏やかに笑った。
「分かった。それぞれ順番に伺わせてもらおう。」
その言葉に、青龍、白虎、玄武の寮生たちから歓声が上がる。
「ありがとうございます、殿!」
「歓迎の準備をしておきます!」
「玄武は徹夜で片付けねばなりませんな。」
広間は笑いに包まれた。
その空気が落ち着いた頃、白虎寮長が静かに立ち上がる。
「皆が揃っている今だからこそ、お披露目したいものがあります。」
白虎寮生たちが大きな木箱を運び込み、机の上へ次々と並べていく。
最初に姿を現したのは、新式の馬具だった。
「こちらは馬庭球の研究から生まれた鞍です。」
座面には柔らかな革と詰め物が施され、長時間騎乗しても腰や腿が擦れにくいよう工夫されている。
「馬庭球は一日中乗ることもありますから、まずは疲れないことを目指しました。」
続いて馬の頭部を覆う革具が置かれる。
「こちらは臆病な馬のための覆いです。」
「耳と横の視界を少しだけ覆い、余計な音や動きに驚きにくくしました。」
「騎手の指示へ集中しやすくなります。」
氏治は何度も頷きながら手に取る。
「戦場でも役立つな。」
「そのために作りました。」
さらに軽量化した坂東鎧、動きやすい兜、新しい面頬が並ぶ。
最後に運ばれてきたのは一本の槍だった。
穂先は坂東サーベルのようにわずかに反りを持ち、突くだけでなく斬ることも意識した独特の形をしている。
「こちらは新式の槍です。」
「坂東サーベルの発想を取り入れてみました。」
氏治は一本一本確かめながら笑みを浮かべる。
「どれも実によく考えられている。」
白虎寮長は静かに頭を下げた。
「これらは白虎だけの装備ではありません。」
「これからは四寮すべてで使っていただきたいと考えています。」
広間がざわめく。
しかし白虎寮長は人差し指を立てた。
「ただし、一つだけ条件があります。」
「実際に使い、良いところも悪いところも、遠慮なく白虎へ伝えてください。」
「重い、軽い、使いやすい、壊れやすい。」
「どんな意見でも構いません。」
「使う者の声こそ、最高の改良案になります。」
白虎寮生たちも深く頷いた。
「工房だけでは、本当に良い装備は生まれません。」
「皆で使い、皆で育てたいのです。」
氏治は新しい鞍を撫でながら満足そうに笑った。
「よい。」
「兵が使い、兵が育て、職人がさらに磨く。」
「兵学館らしい、実に良い在り方だ。」
その言葉に四寮の寮生たちは大きく頷き、龍宮館は再び拍手に包まれた。
試合は終わった。
しかし兵学館の学びと工夫は、今まさに新たな一歩を踏み出そうとしていた。




