白虎の鎖
大掾は何度も前へ出ようとした。
右へ切り返す。
白虎が付く。
左へ流れる。
やはり白虎が付く。
速度を上げる。
同じように加速する。
止まれば止まる。
まるで影のように、いや、肩が触れ合うほどの距離で静かに寄り添い続ける。
そのため、大掾は思うように鞠へ絡めなかった。
「回せ!」
青龍寮は何度も鞠をつなごうとする。
しかし、本来なら大掾を経由して生まれるはずの攻撃の起点が機能しない。
苦し紛れに別の騎手へ渡す。
そこへ白虎の救援が現れる。
再び大掾へ戻そうとしても、すでに白虎がぴたりと付いている。
「繋がらない……。」
氏治は思わず呟いた。
治彦も静かに頷く。
「大掾殿を封じるだけで、青龍寮全体の流れが止まっています。」
一方の白虎寮は決して攻め急がない。
堅く守る。
確実につなぐ。
一歩ずつ。
一歩ずつ。
青龍陣を押し上げていく。
「焦るな。」
小山義広の声が飛ぶ。
「一歩でよい。」
派手な突破はない。
豪快な当たりもない。
ただ、じわじわと陣地を広げていく。
やがて白虎寮は網囲い目前まで攻め込んだ。
「今だ!」
白虎が鞠を前へ送る。
青龍も全員で守りに入る。
馬と馬が肩を寄せ合い、木槍が幾本も交差する。
鞠は見えない。
押す。
押し返す。
誰も引かない。
誰も倒れない。
その場でじりじりと組み合いが続いた。
観客席から思わず笑いが漏れる。
「じれったい!」
「あと一歩なのに!」
「押せ!」
「守れ!」
両寮の声援が競技場へ響く。
しかし決定打は生まれない。
白虎は慎重に。
青龍は必死に。
互いに一歩も譲らぬまま時間だけが流れていく。
その時――
法螺貝が長く鳴り響いた。
前半終了。
得点は動かず、〇対〇。
だが競技場の誰もが感じていた。
玄武寮が空間を支配する軍ならば、白虎寮は相手の長所を封じ、一手一手を積み重ねて勝機を待つ軍。
青龍寮はその堅牢な策の前に、自慢の攻撃力を最後まで発揮することができなかった。




