中休みーー十五分の軍議
法螺貝が長く鳴り響き、前半終了が告げられた。
観客席では歓声が収まり、屋台には握り飯や団子、冷えた甘酒を求める学生や町人が集まり始める。
瓦版屋は前半戦の速報を書き上げ、「玄武二点先制!」「朝基、朱雀を翻弄す!」と声を張り上げながら競技場を駆け回っていた。
一方、競技場の両陣では対照的な光景が広がっていた。
朱雀寮では六騎が馬を降りるや、その場へ腰を下ろした。
馬も人も汗だくで、肩を大きく上下させている。
宇都宮朝綱は控えの騎手たちへ目を向けた。
「……交代するか。」
前半、玄武に走らされ続けた疲労は大きい。
ここで主力を休ませるべきか。
しかし控えと主力では、まだ技量に明らかな差がある。
一人替えれば、その穴を玄武は必ず突いてくる。
朝綱は静かに首を横へ振った。
「このまま行こう。」
「後半も、この六人で戦う。」
誰も異論は口にしない。
ただ短く頷くだけだった。
疲労が濃く、陣にはほとんど会話がなかった。
対照的に、玄武寮は違った。
朝基は前半最後の五分間、前線で走り続けた三騎を見回す。
「交代。」
その一言だけで三人は迷いなく馬を降り、控えの三騎が前へ出る。
最初から決められていた役割交代だった。
「左は半馬身寄せる。」
「朝綱殿は次は中央を厚くしてくる。」
「ならば次は右を使う。」
「指笛は一つ減らす。」
次々と意見が交わされる。
朝基だけが話すのではない。
全員が前半を振り返り、互いに意見をぶつけ合う。
時には反論も飛ぶ。
「それでは朝綱殿に読まれます。」
「ならば二手目を変える。」
議論は厳しく、容赦がない。
だが誰も感情では話さない。
勝つためだけに話していた。
その様子を見つめながら、氏治は静かに呟く。
「朱雀は疲労と戦っている。」
「玄武は、まだ戦そのものを組み立てているのか。」
治彦も頷いた。
「玄武寮では、中休みも試合の一部です。」
少し離れた場所では、白虎寮の小山義広が学生たちへ前半の分析を語っていた。
「玄武寮の強さは二点を取ったことではありません。」
「一騎だけが鞠を追い、残る五騎は後方へ下がる。」
「普通なら、そのまま押し込まれて敗れます。」
学生たちは頷く。
確かに、常識ならそうなる。
「ですが玄武寮は違います。」
「敵を押し返すのではありません。」
「敵を制御しているのです。」
小山は帳面を開いた。
「攻めているように見える朱雀寮は、実際には朝基殿が望む場所へ導かれていました。」
「これは戦術だけでは真似できません。」
「六騎全員が同じ間合い、同じ判断で動く。」
「玄武寮最大の強みは、その練度です。」
学生の一人が尋ねる。
「では、朱雀寮は弱いのでしょうか。」
「いいえ。」
小山は静かに首を横へ振った。
「主力六騎だけなら、青龍や白虎と十分互角です。」
「教本どおりの動き、反復鍛錬、統率。」
「軍としての完成度は非常に高い。」
「控えとの力の差が埋まり、寮全体の底上げが進めば、いずれ兵学館でも上位に立つでしょう。」
そして競技場の玄武寮へ視線を向ける。
「ですが。」
「玄武寮は、その朱雀寮の攻略法を前半だけで見つけてしまいました。」
学生たちは静かに息をのんだ。
「前半は朱雀寮が実力を示した時間です。」
「玄武寮は、それを最後まで観察しました。」
「攻め方。」
「守り方。」
「修正の仕方。」
「すべてです。」
小山は帳面を閉じる。
「だから後半は、朱雀寮が修正しても、玄武寮はさらにその先を用意しているでしょう。」
「私の予想では――」
競技場では朝基が静かに馬具を締め直している。
その姿を見つめながら、小山は静かに言った。
「後半は、玄武寮の試合になります。」
その言葉に、白虎寮の学生たちは誰一人反論できなかった。
やがて短い法螺貝が鳴る。
十五分の軍議は終わりを告げる。
疲労を抱えた朱雀。
新たな三騎を加え、静かに隊列を整える玄武。
兵学館中が見守る中、後半戦の幕が、ゆっくりと上がろうとしていた。




