開始の一打
夏の朝。
霞ヶ浦湖畔の練習場は、もはや練習試合とは思えぬ熱気に包まれていた。
朱雀寮と青龍寮が遊び場として整備し、そのまま練習場となった広場は、今日だけは兵学館中の視線を集める舞台となっている。
練習場を囲むように学生や町人が詰めかけ、屋台では握り飯や団子、冷えた甘酒が飛ぶように売れていた。
瓦版屋は筆を片手に走り回り、「兵学館最強・玄武、朱雀に挑む」「朝基と朝綱、兄弟対決」と書き付けた見出しを声高に読み上げる。
まるで祭りだった。
やがて審判役の学生が中央へ進み出る。
「両軍、整列!」
朱雀寮六騎が姿を現す。
寮長・宇都宮朝綱を先頭に、朱色を基調とした陣羽織を羽織る六騎が整然と並ぶ。
歩幅まで揃ったその姿に、観客席から感嘆の声が漏れた。
「さすが朱雀。」
「規律だけなら四寮一だ。」
続いて玄武寮六騎が入場する。
寮長・結城朝基を先頭に、黒を基調とした陣羽織が朝日に映える。
派手な動きは一切ない。
だが、その静かな迫力に観客席はどよめいた。
「玄武だ!」
「今日は主力六騎が揃っている!」
「本気だぞ!」
観客席の一角では、玄武寮の学生たちが小田家の軍旗「雷霞一撃」を大切そうに掲げている。
軍旗は試合へ持ち込まず、誇りの象徴として見守るだけである。
その姿に氏治は静かに頷いた。
「軍旗とは、兵の心を一つにするもの。」
「よく分かっておる。」
審判が両軍を見回した。
「本試合は朱雀寮のホームゲームとする。」
朝綱が馬上で一礼する。
朝基も静かに礼を返した。
「開始!」
法螺貝が高らかに鳴り響く。
中央へ置かれた革張りの鞠へ、玄武寮の朝基がゆっくり馬を進める。
木槍を軽く構え、静かに息を吐く。
次の瞬間――。
カンッ!
乾いた音とともに、朝基の木槍が鞠を鋭く弾いた。
革鞠は朝日に輝きながら高く舞い上がる。
「始まった!」
観客席から大歓声が上がる。
朱雀と玄武、十二騎が一斉に馬腹を蹴り、砂煙を巻き上げながら鞠へ殺到した。
兵学館中が見守る一戦が、ついに幕を開けたのである。




