↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
93/196

第33話 同行者

 通信の声が、ふつりと途切れた。


 少し間を置いて、刹那はソファーの背もたれから顔を出す。


 アリスは、携帯端末の画面を見つめたまま動かなかった。


「……終わったか?」


 返事は、すぐにはなかった。


 アリスは端末をそっと机に置き、目の前のティーカップを持ち上げた。


「ええ」


「誰からだ?」


「美咲からよ」


 アリスの言葉に、刹那が首を傾げた。


 端末越しでも、刹那の耳まで届くほどの怒鳴り声だった。


 少なくとも、美咲の声ではない。


「のわりには、えらい声が漏れてたけど」


「正確には、美咲の同行者よ」


「同行者?」


 刹那が聞き返すと、アリスは静かに続けた。


「今日、臨時の編成で任務に出たらしいわ。その時の同行者」


「へぇ。あいつが、野良で任務……ね」


 美咲が、野良で任務に出た。


 刹那はその言葉を頭の中で転がして、少しだけ口元を緩めた。


 珍しい。


 いや、珍しいと思うこと自体が、こちらの勝手なのだろう。


 美咲は別に、アリスと刹那の後ろだけを歩くプレイヤーではない。


 怖がりながらでも、必要だと思えば前に出る。


 そういうところがあるのは、もう知っている。


 それでも、自分たちの知らない場所で、知らない相手と任務に出て、こうして同行者まで連れて帰ってくる。


「……やるじゃん」


 声に出すつもりはなかった言葉が、少しだけ漏れた。


「嬉しそうね」


 アリスは刹那を見ていない。


 ただ静かに、手元のティーカップを見つめている。


 けれども、確かにそう言った。


「誰かさんもな」


 冗談交じりの刹那の言葉に、アリスが再び紅茶に口をつけた。


「にしても、外で友達を作って帰ってくるとはな。どんな奴だった?」


「口調は荒いけれど、悪意は薄いわ。確認できる範囲では、問題行動もないわね」


 当然といったアリスの口調に、刹那の口元が歪んだ。


「そこまでしたのかよ」


「必要なことよ。素性の分からない相手を、そのまま通すわけにはいかないもの。この場に来るなら、なおさら」


「あいつが呼びたいって言ったんだろ? 心配しすぎじゃね」


「美咲だからよ。以前よりはましになってるとはいえ、彼女は人を疑わなすぎる」


 以前、美咲はある二人のプレイヤーに騙され、痛い目を見ている。


 そのことが、刹那の脳裏によぎった。


「そりゃそうだけどさ。もう少し穏便に進められないのかね」


 刹那はまだ腑に落ちない顔で、アリスを見つめた。


「そこまで言うなら、代わってもらえないかしら?」


 唐突な問いかけに、刹那の眉がわずかに寄った。


「何を?」


 アリスがティーカップをソーサーに置くと、陶器がほんの少しだけ鳴った。


 そして、ゆっくり視線を刹那に向けた。


「クランマスター」


 刹那はアリスから視線を外し、話題を変えるように口を開いた。


「そういえば、この前の話どうなったよ?」


 アリスの小さなため息が聞こえる。


「何の話?」


「ドローン戦が終わった後に話した、美咲の悪癖の話」


「自己犠牲」


 アリスの静かな声。


 刹那は小さく頷き、続けた。


「あの時、私が言っただろ。このままだと痛い目見るぞ、って」


「ええ。覚えてるわ」


「お前は、考えてるところだって言ったよな」


 刹那は、切れた通話画面へ視線を向ける。


「私達だけなら笑って流せる。でも、今後はそうはいかなくなるぞ。もちろん、私も考えるけどさ」


 アリスが目を伏せた。


 それが考えているのか、それとも困っているのかは判断できない。


 けれども、すぐに口を開いた。


「美咲のあれは、癖というより、判断の前提に近いわ。すぐに解決する問題ではない」


 アリスも机の上の携帯端末を見た。


「美咲は、自分が傷つくことを判断材料から外しがちよ」


「知ってる」


「だから、本人だけに任せていても変わらない」


 その言葉を、刹那は頭の中で一度転がした。


 美咲は、自分が傷つくことには鈍い。


 だが、自分のせいで誰かが怒ったり、困ったり、悲しんだりすることには、ひどく敏感だ。


 たぶん、必要なのは「やめろ」と命令することではない。


 その選択をされた側が、ちゃんと怒ること。


 困ること。


 放っておけないと、本人の前で言うこと。


 そういう面倒くさい反応の方が、美咲には効く。


「あー。で、外で口うるさそうなのを拾ってきたわけか」


「拾ったのは美咲よ」


 アリスはそう言うと、ティーポットから新たに紅茶を注いだ。


 刹那はその動作が、これ以上この話題で話すことはないと言っているように感じた。


 刹那が肩をすくめ、小さく笑った。


「ちゃんと考えてるなら文句ないわ。クランマスター様に従う」


「無責任ね」


「信用してるんだよ」


 会話が一段落しかけた頃、端末が短く震えた。


【Misaki.:もうすぐ着きます】


 刹那がソファーから身を起こす。


「さて。同行者様のお出ましだな」


「刹那」


「分かってるって。お行儀よくだろ」


 アリスは刹那を一瞥すると、二度目のため息を漏らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。