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第26話 殲滅

 三人はそれぞれの位置につくと、再び銃声が鳴り始めた。


 れんは、すでにほとんどの小型をまとめ終わっている。


 走り回るほどの数ではないのか、今は後退しながらゆっくり距離を測っていた。


 ナナは目に入った敵を数発で破壊し、次へ向かう。


 その動きは、先ほどより俊敏で、正確だった。


 カウントは残り一分。


 美咲が叫ぶと、二人が距離を取り始めた。


 攻撃は最小限。


 安全な場所を確保する。


 美咲の視界の中に、二人の姿とジャミングバグが自然とおさまっていった。


 ジャミングバグの映像が切り替わる。


 美咲は一瞬身構えるが、映像から目を逸らさなかった。


 映像は相変わらず、不穏を煽るような内容。


 でも、フィアーの時ほど脳に直接触れてくる感覚はなかった。


 二人に付与した形跡はない。


 美咲は自身のバイタルデバイスに視線を落とした。


 デバイス画面には、口渇と表示されている。


 今回は、当たりだ。


 美咲は確認だけ済ませると、はぐれた小型に向かっていった。


「れん! まとめてぶっとばす!」


 ナナの叫び声が、広場に落ちる。


 れんが群れから大きく距離を取った。


 れんとすれ違うように、ナナが群れに向かっていく。


 ナナの手には、濃い緑の球体が握られていた。


「ボス用に取っておいたんだから、ありがたく食らいなさいよ」


 ナナはピンを抜くと、群れに向かってグレネードを投げ入れた。


 手を離れた瞬間、レバーが弾ける。


 金属音。


 一拍遅れて、群れの中心で爆発が広がった。


 衝撃と破片によって、数体が崩れ落ちる。


 美咲の視界に、遅れて合流した二体の小型が映った。


 煙の中を抜け、二人へ向かっていく。


「二体、煙から出てきます!」


 ナナとれんは即座に銃口をそちらに向けた。


 そして、爆煙から小型が顔を出すと、二人が引き金を引いた。


 寸分の狂いもない、同時射撃。


 小型はそこから一歩も動けず、崩れ落ちた。


 言葉を交わすこともなく、すぐさまナナとれんの位置が入れ替わる。


 阿吽の呼吸。


 小型はまだ、三十体前後はいるように見える。


 けれども、この数なら何ら問題ない。


 そう思えてくるほど、三人の動きは噛み合ってきていた。


 次の標的に向かおうとした時、美咲の中を違和感が駆け巡る。


 美咲は、小型が湧いてきていた通路に視線を向けた。


 正面。


 左右。


 何度見ても、そこから小型が湧いてくることはなかった。


 視線を動かすたびに、疑念が確信に変わる。


 今まで、処理の速度が上がったから敵が減ったと思っていた。


 違う。


 そもそも、湧いてきていなかった。


 いつからそうなのかは分からない。


 でも、確かに今は湧いていない。


 美咲は逸る気持ちを抑えるように、バイタルデバイスを見た。


 次の付与まで、残り一分弱。


 美咲はカウントのために、前線から距離を取った。


「一分前です!」


 二人が動きを変える。


「十秒前です!」


 美咲は何が来てもいいように、意識を集中した。


 ジャミングバグから聞こえてくる砂嵐が、耳を塞ぎたくなるほど大きくなっていった。


 今まで見たこともない挙動。


 美咲の心臓が跳ね上がる。


 考えるより先に、直感が脳を刺激した。


 フィアー。


 ぶつりと、ジャミングバグの音が途切れ、画面が暗転する。


 画面が、切り替わる。


 画面の中は、薄暗い通路だった。


 赤い警告灯だけが、一定の間隔で明滅している。


 手前に、一人の人影が立っていた。


 肩で息をしながら、両腕を広げるようにして、奥にいる誰かを庇っている。


 暗闇の中から、黒い影が次々と現れた。


 そのうちの一体が、人影へ飛びかかる。


 人影はそれを受ける。


 もう一体。


 さらにもう一体。


 肩が裂ける。


 腹が抉れる。


 それでも人影は退かない。


 けれど、次の一体が、その脇をすり抜けた。


 人影が、咄嗟に手を伸ばす。


 でも、届かない。


 画面の奥。


 庇われていた誰かの喉元へ、その影が食らいついた。


 音はなかった。


 ただ、真っ赤なものだけが、壁と床に大きく散った。


 足元へ血が流れてくる。


 それが、手前の人影の靴先に触れた瞬間、画面が砂嵐に切り替わった。


 美咲は一瞬だけ、砂嵐の画面から目を外せなかった。


「美咲!」


 ナナの呼びかけに、美咲がはっと息をする。


 顔を向けると、ナナがすでに射撃を開始していた。


 その傍らで、れんが片膝をついている。


 美咲は一直線に二人のもとに駆け寄ろうとするが、その進路に小型が割って入ってきた。


 迂回。


 美咲が左右に視線を向ける。


「姿勢を低く、真っすぐ!」


 ナナの声が、その考えを消し飛ばした。


 美咲はすぐさま姿勢を落とす。


 目の前を遮っていた小型の頭部が消し飛び、その場に崩れ落ちる。


 美咲はそのままの体勢で、一直線に走り始めた。


 視界に入る敵は、美咲へ向かって来る前にすべて崩れ落ちていく。


 小型の脇を抜けて、肩で息をしながら顔を歪めているれんのもとに駆け寄った。


 オートインジェクターを取り出し、れんに投与する。


 すぐに、れんの呼吸が整っていくのが分かった。


【Fear:00:17】


 数字は動かない。


 解除はできている。


 けれども、先ほど感じた恐怖と同じ感覚をれんも受けていたと思うと、美咲の口からは謝罪がこぼれ落ちた。


「……遅くなって、ごめんなさい」


 れんは静かに首を横に振った。


「いえ、助かりました」


「立てますか?」


 美咲が手を差し出した。


 れんがそれを握り返し、力強く立ち上がった。


「帰ったら、状態異常耐性上げなきゃですね」


 それだけを言い残し、れんは前線で耐えるナナのもとへ駆けていった。


 精神安定剤の数は、残り八本。


 けれど、小型はもう湧いていない。


 殲滅という目標の背中が、今、確かに見え始めていた。

 

 

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