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第24話 もう一度

「五秒前です!」


「れん、離れて!」


 ナナは叫びながら、目の前の小型へ銃口を向けた。


 五秒。


 たったそれだけしかない。


 れんは返事をしなかった。


 ただ、反応は早かった。


 外周を走っていた軌道を大きく変え、小型の群れを引きずるようにして距離を取る。


 ナナも後ろへ跳んだ。


 けれど、完全には離れられない。


 小型が一体、床を蹴って迫ってくる。


「邪魔!」


 引き金を引く。


 銃声。


 小型の頭部が弾ける。


 その直後、ジャミングバグのブラウン管に映像が走った。


 走る人影。


 その輪郭が、一拍遅れてずれていく。


 同じ人影が、少しずつ違う場所に立つ。


 視界が、揺れる。


 ナナは舌を鳴らした。


「これ、私か……!」


 次の瞬間、視界が歪んだ。


 目の前の小型が、二体に見える。


 れんの背中が、右にも左にもある。


 ジャミングバグの赤い光が、いくつにも割れて滲んだ。


「っ、見づら……!」


 銃口が揺れる。


 狙いが定まらない。


 さっきまで自分が引き受けようとしていたものが、どれだけ無茶だったのか、嫌でも分かった。


 撃つ。


 見る。


 守る。


 数える。


 その全部を同時にやるには、目が足りない。


 頭も、手も、足りない。


「ナナ、そっち行ってるぞ!」


 れんの声が遠くから飛ぶ。


「分かってる!」


 分かっている。


 けれど、うまく見えない。


 小型の影が重なる。


 近いのか、遠いのか。


 どれが本物なのか。


 判断が一拍遅れる。


 その一拍で、小型の爪が迫った。


「ナナさん!」


 掠れた声。


 それに続いて、背後から銃声が響いてくる。


 迫ってきていた小型の動きが止まる。


 ナナの横を、美咲が駆け込んできた。


 足元はふらついている。


 顔色も悪い。


 それでも、美咲の手には解除薬が握られていた。


 それを、ナナの腕に押し当てる。


 短い作動音。


 滲んでいた視界が、音を立てずに戻った。


「……助かった」


 ナナは短く返し、動きを止めた小型を撃ち抜いた。


 美咲はその場で膝をつきかけた。


 だが、倒れなかった。


 片手を床につき、もう片方の手で腕のバイタルデバイスを見る。


 呼吸は浅い。


 声も、まだ戻りきっていない。


 それでも、美咲は画面から目を逸らさなかった。


「次まで……一分、四十秒……です」


 声は小さく掠れていた。


 けれど、今度は届いた。


 ナナは振り返らずに言う。


「無理なら下がって」


「いえ、下がりません」


 美咲の返事は、震えていた。


 それでも、迷ってはいなかった。


「カウントは、私がやります」


 れんが外周から叫ぶ。


「美咲さん、無理はしないでください!」


 美咲は立ち上がった。


 膝はまだ震えている。


 それでも、視線はジャミングバグのブラウン管へ向いていた。


「……すみません」


 声はまだ掠れていた。


「でも、戻ります」


 ナナは、ほんの一瞬だけ口元を歪めた。


「なら、頼んだ」


 それだけ言って、再び前へ出る。


 れんが小型を引き直す。


 ナナが漏れた敵を撃ち落とす。


 美咲が、途切れかけた時間を拾い直す。


 一度、壊れかけた戦場が、もう一度つながっていく。


 その中心にあったのは、まだ震えている、掠れた声だった。

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