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第20話 後手

 警告灯に照らされたれんの表情が、初めて大きく歪む。


「フェーズ移行……!」


「早すぎでしょ!?」


 ナナが遠くで叫んだ。


「ナナ、美咲さんのところに!」


 れんの呼びかけに、ナナがジャミングバグから距離を取る。


 そして、美咲の元に駆け寄ってきた。


 ナナは荒れた息を整えながら、美咲に視線を向けた。


「私たちで、れんの周りを削るよ」


「はい!」


 態勢を立て直さなければいけない。


 そのためには、れんが合流できるように周りの小型を削る。


 二人は、走り回るれんの後ろを追う小型に銃口を向けた。


 二人の武器が火花を吹く。


 一機。


 二機と、小型の機械生命体がれんの後ろで崩れ落ちていった。


 確実に倒せてはいる。


 なのに、数が減っている気がしない。


 突然、美咲のサブマシンガンが音を止めた。


 弾切れ。


 美咲は慌てて、空になったマガジンを抜き取った。


 ポーチから予備のマガジンを取り出し、新しいものを叩き込む。


 そして、引き金を引いた。


 普段通りの動作。


 けれども、返ってきたのは乾いた空撃ちの音だけだった。


 どうして。


 美咲はわけも分からず、もう一度マガジンを抜いて弾倉を確認する。


 弾は入っている。


 マガジンを差し込み、もう一度引き金を引く。


 なのに、弾が出ない。


「コッキングレバー!」


 美咲が考えるより先に、ナナが叫んだ。


 美咲は咄嗟にコッキングレバーを引き、勢いよく戻した。


 いつもなら自然にできるはずの動作が、抜けていた。


「落ち着きなさいって!」


 ナナの声で、美咲の指先が跳ねた。


 落ち着け。


 大丈夫。


 美咲は心の中で、小さくつぶやいた。


 その時、視界の端に黒い物体が入り込む。


 美咲の目だけがそれに向いた。


 小型の敵が三機、こちらに迫ってきている。


「み、右です!」


 美咲は叫ぶと同時に、銃口をそちらに向けた。


 美咲が銃弾をばら撒く。


 倒す必要はない。


 ひるませるだけで、近づけなければいい。


 少し遅れて、ナナの放った弾丸が向かってきている小型三体を破壊した。


「左!」


 すぐさま、ナナが叫ぶ。


 美咲が銃口を向けると、二体がこちらに向かって這ってきていた。


 銃口を向けて、引き金を絞る。


 二人の弾丸が、同時にそれを破壊した。


 美咲は周囲に視線を走らせた。


 小型の影が広場のあちこちで顔を出し始める。


 減らしたはずの数が、また増えていく。


 数が多すぎる。


 れんの引きつけも。


 美咲とナナの破壊も。


 何もかもが、一手遅れている。


「れん! 無理!」


 ナナの声で、れんが一瞬こちらを見た。


 そして、合流ができないと理解し、走る速度を上げた。


「れんに全部任せられない。私もなるべく集めるから、あんたは回復と解除優先」


 舌打ち交じりにナナが言った。


「攻撃するのは、あんたに向かってくる奴だけでいいから」


 ナナは美咲の返事を待たずに走り出した。


 隣からナナが消えただけで、グリップを握る美咲の手が震え始める。


 落ち着け。


 落ち着け。


 震えを落ち着かせるために、美咲は何度も唱え続けた。


 耳障りな砂嵐が、止む。


「え?」


 美咲が顔を上げて、ジャミングバグに視線を向けた。


 さっきの付与から、四分どころか二分も経っていない。


 なのに、ブラウン管の映像が砂嵐から切り替わった。


 早すぎる。


 ブラウン管の画面に、走る人影が映った。


 けれど、その輪郭は一拍遅れて後ろに残り、何重にもずれていく。


 同じ人影が、少しずつ違う場所に立っていた。


 映像が途切れると、走っていたナナの足取りが乱れた。


 何かを見失ったように銃口が揺れ、そのまま片膝をつく。


 遠くで小型が二体、ナナに赤い目を向けた。


 何がナナに付与されたのか、分からない。


 美咲は、ナナに向かって走り始めた。


 小型が到着する前に、美咲はナナに解除薬を投与すると、すぐさま向かってきている二体に銃口を向けた。


 今度は止めるだけじゃ意味がない。


 美咲は、小型の赤く光る目に照準を合わせた。


 ここで、破壊する。


 連続した銃声。


 放たれた弾丸が、小型の目を貫いた。


 すぐさま照準を次に向けて、引き金を絞った。


 目の前で、二体の小型が音を立てながら崩れ落ちた。


 美咲は周囲に視線を走らせながら口を開いた。


「ナナさん、大丈夫ですか!?」


「……ごめん、大丈夫」


 ナナがゆっくりと立ち上がった。


「……くそっ、邪魔すんじゃないわよ」


 苛立ちを隠しきれていない口調。


「おそらく、二分です」


 美咲の短い言葉に、ナナはゆっくり息を吐くと頷いた。


「おっけー。伝えてくる」


 どうにか立て直さなければ、こちらがどんどん削られていく。


 優先順位を間違え続ければ、いつかは崩壊する。


 焦る美咲とは裏腹に、中央に佇む巨大なテレビだけが、次の映像へ向けて静かに砂嵐を刻んでいた。


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